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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第55章

第990回

 翌日、シャルロットは11時頃ホールに着いた。エーグルフォール教授と論文の打ち合わせをしてからホールにやってきたからである。
 かの女は、ピアノの音がしたので、舞台の袖ではなく、客席に向かった。
 マリアーンは、リストのソナタを演奏していたが、かの女に気がつくと演奏を止めた。
「おはよう、シャルロット」彼はほほえんで挨拶した。
「練習の邪魔になってしまった?」シャルロットが訊ねた。
「いや、指ならしは終わったよ」彼が答えた。「練習する?」
「いいえ、大丈夫。あとで、リハーサルの時に弾けばいいわ」
 それを聞くと、マリアーンはステージから飛び降り、かの女のところまでやってきた。
「じゃ、少し、話でもしない?」
 シャルロットは目を丸くした。「・・・コンサート前に?」
「コンサート前に、話をしたこと、ないの?」
「ええ、あまりね」シャルロットが答えた。「むしろ、黙って精神を集中する方よ」
「緊張感を緩和するのには、いろいろ方法がある」マリアーンが言った。「楽屋に行かない? ここでは、邪魔が入るかも知れない」
 シャルロットはうなずいた。
「荷物は、それだけ?」マリアーンは歩きながら訊ねた。
「ええ、手荷物は」シャルロットが答えた。「ステージ衣装は、あとで、ノルベールが届けてくれることになっているわ。なんせ、この格好では、一人で全部はできないの」
 マリアーンはうなずいた。それから、こう訊ねた。「ノルベール、って、この前一緒だったあの人でしょう? 彼は、あなたの恋人なの?」
 シャルロットは首を横に振った。「いいえ、違うわ。彼は、友達よ」
「ずいぶん親しい友達だよね?」マリアーンは、半分からかうような口調で言った。
 シャルロットは笑い出した。「おせっかいな友達ね」
 そう言うと、かの女は少しだけ真面目な顔で話し出した。「わたしたちは、男女の間に本物の友情が育つものなのかという命題に取り組んでいるの」
 マリアーンはふきだした。「それは、また、紳士的な取り組みで・・・」
 そういうと、彼は笑いながら言った。「それでは、ぼくは、あなたの恋人に立候補してもいいかしら?」
「わたしには、婚約者がいるわ」シャルロットがさらりと言った。「立候補は、現在、受け付けていないわ」
 マリアーンはまだ笑っていた。「それでは、親友の一人に立候補したいんだけど?」
 シャルロットは首をかしげ、真面目な顔で訊ねた。「普通のひとは、親友と呼べる人を、何人持っているものかしら?」
 マリアーンの顔から笑いが消えた。「さあね。少なくても、ぼくには、一人もいない」
 シャルロットの足が止まった。「・・・ボレスワフスキーさんは?」
 マリアーンも立ち止まった。少し考えてから、彼は答えた。「彼は、親友じゃない」
 シャルロットは驚いた顔を彼に向けた。
「彼は・・・」マリアーンはさらに言葉を選んでいるようだった。「・・・彼は、弟のような存在だ。あるいは、同志かな?」
「音楽を愛している仲間の一人?」シャルロットが訊ねた。
「それもある。そして、一緒に育った仲間だ」
 そういうと、彼はまた歩き出した。シャルロットはゆっくりとした足取りであとを追った。
 そして、二人は控え室に入った。
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