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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第56章

第995回

 フランショーム家第四代当主エクトール=フランショームは指揮者だった。
 彼は、母親のジョルジェットから、生まれる前から作曲家になることを期待されていた。彼の父親は作曲家だった。フランショーム夫妻は、生まれてくる子が男の子だったら、作曲家ベルリオーズにあやかってエクトールと名付けようと決めていたのである。こうして生まれてきた男の子は、過大な期待と共に、エクトールの名が与えられた。
 しかし、この子どもは、あまり音楽には興味をしめさなかった。かえって、次に生まれてきた息子(というのが、のちのロベール=フランショームだったのだが)がほんの赤ん坊の頃から音楽に興味を持ち、ピアニストとしての才能の芽を表すようになると、母親の関心は下の息子の方へ向かった。ロベールは早熟な子どもだったので、母親は亡くなった彼の父親がそうだったように、幼い頃からイギリスに留学させようとした。そのころ再婚したばかりの母親は、ロベールだけではなく、ついでに上の息子も一緒にイギリスへ送った。そのころになると、かの女はエクトールにはほとんど何も期待していない状態だった。ところが、エクトールがイギリスで師事した教師は、彼には別の才能があることを見抜いた。やがて、彼は指揮者としての才能を認められるようになるのである。
 母親の愛を独占状態にしていたロベールは、ザレスキー一族の娘に恋をするという馬鹿な真似をし、母親の寵愛を失ってしまった。そのとき彼の母親が考えたのは、エクトールにだけは馬鹿なことをさせまいということだった。ジョルジェットは長男に結婚を急がせた。
 1895年、フランショーム家に双子の男の子が誕生した。まもなく病死してしまったフランショーム夫人にかわり、ジョルジェットが孫たちを引き取った。その後ジョルジェットは、エクトールの二人の息子だけではなく、養子に迎えた友人の息子のほか、末の息子の子どもたち二人と、合計5人の男の子たちを育てることになった。男の子たちは、エクトールを父親、ジョルジェットを母親のように思って育った。やがて、子どもたちは成長し、この家から出て行った。ジョルジェット=フランショームもこの世を去り、この家は、休みの時以外はほとんど人がいない状態になった。しかし、5人の元子どもたちと、父親のエクトールは、長い夏休みを一緒に過ごすのが慣例となっていた。すでに社会人であるロジェ=ド=ヴェルクルーズでさえ、夏休みの一部をこの屋敷で過ごすために戻ってきた。5人は、本当の兄弟以上に結束がかたい人たちだった。
 さて、シャルロットたちの到着を待っていたのは、当主のエクトール=フランショームだった。彼は、夏休みで戻ってくる<息子たち>のためにピアニストとチェリストを招待することにした。ただ、誰がやってくるのかは知らずにいた。
 エクトールは、書斎に入ってきた二人の少女を見た。一人はチェロのケースを持っていた。もう一人は松葉杖をついていた。彼は、二人を不思議そうに見つめた。チェロケースを持っている少女がチェリストならば、もう一人の少女は足が不自由なのにどうやってピアノを演奏するのだろうか?
 彼は、ちいさい方の少女を見つめた。その顔がだんだん険しくなってきた。
「・・・わたしの記憶に間違いがなければ、きみは、エマニュエルが養女にした例の女の子じゃないかな?」
 シャルロットはちいさくうなずいた。
 それを見ると、彼の表情は一瞬のうちにいろいろめまぐるしく変化した。最後に浮かべたのは驚きの表情だった。「・・・ザレスキー一族のきみが、なぜ?」
 シャルロットはほほえみを浮かべた。「本当は、コルネリウスと一緒に来るべきだったんですよね。でも、その前に一度あなたにお会いしたかったんです」
「・・・わたしが、きみたちの結婚に反対するかも知れないから?」
 シャルロットは首を横に振った。「そうは思いません。もしそうだとしたら、もっと早く反対されていたのでは?」
 その表情を見ると、彼の表情にもほほえみが浮かんだ。「それでも、もし反対だと言ったら?」
 シャルロットはまだほほえみ続けていた。「あなたは、弟さんの最後の望みを知っておられます。決して反対なさらないでしょう。お会いして、そう確信しました」
 彼は一瞬絶句した。それから、ややざらざらした声でこう言った。「・・・あなたは、クラリス=ド=ヴェルモンの若い頃にそっくりだ。あなたにそう言われたら、わたしには何も言えないだろう。お願いだから、わたしの息子たちの前では、そんな顔はしないでくれ。もし、本気でコルネリウスと結婚したいと思っているのならば」
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