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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第56章

第1001回

「天使に知り合いはいない」オスカールが答えた。「それ以前に、きみが天国に知り合いがいるなんて信じられない」
 フランソワは毒舌の応酬なら負けてはいなかった。「ぼくは、きみよりは交友範囲が広いんでね。きみの知り合いには、ザレスキー一族の当主なんていう大物はいないだろう? ぼくには、天国にも地獄にも煉獄にも知り合いは大勢いるんだ」
「それより、ミュラーユリュードの天使、って誰だ? きみの恋人か? それとも、数多い恋人の一人か?」オスカールは皮肉を言った。
 ブリューノはふきだした。未だかつて、フランソワに恋人がいるという話は聞いたことがない。
「ぼくの恋人じゃない。コルネリウスの恋人だ」フランソワはそう言うと、真面目な顔をした。「あれは、シャルロット=ド=サン=メランだろう? コルネリウスも一緒か?」
 二人は首を横に振った。
「シャルロットは、ぼくのパートナーとしてここにやってきた」オスカールが言った。
「きみの・・・?」フランソワは絶句した。
 オスカールとブリューノは顔を見合わせてにやりとした。
「・・・と、かの女は説明した」オスカールは真面目な顔を繕ってそう言った。「そのあと、こう言い換えた。『わたしの人生のパートナーは別の男性です』とね」
 フランソワは事情がわかるとほほえんだ。「・・・なるほど、かの女が、きみたちのアンサンブルの相手なのか」
「ところで、天使ってどういうこと?」ブリューノが訊ねた。
「かの女のミュラーユリュードでのあだ名が、プティタンジュだった」フランソワが答えた。「・・・それにしても、びっくりしたよ。パパの頭がついにおかしくなったのかと思った。長男かわいさに、甥の婚約者を奪うなんて、彼らしくないことだからね」
 二人の少年はふきだした。
「・・・そんなことは、きみの親友が認めないだろう?」オスカールは笑いながら訊ねた。
 フランソワは真面目な顔をした。
 その表情を見ているうち、二人も笑うのをやめた。
「シャルロットとコルネリウスは、できるだけ早く結婚した方が良さそうだな」フランソワは言った。「そうでなければ、彼らの結婚には困難がつきまといそうだ」
「困難?」オスカールは真面目な顔をした。
「現在のところ、われわれの偉大な父親と、ザレスキー家の頑固な老人の二人は、彼らの結婚を祝福している」フランソワは言葉を選びながら言った。「ところが、その次の代は、そうでもなさそうだ」
「・・・?」オスカールは興味を持ってフランソワを見つめた。
「ザレスキー家のブルーの目を見つめてはいけない。とんでもない結果が待ち受けている」そう言うと、フランソワはブリューノの方を見た。「・・・そうだろう?」
 ブリューノは赤くなった。
「その結果とは、報われない恋だ」フランソワが言った。「フランショーム家の男性たちは、かの女たちに恋をするという過ちを犯し続ける。これまで何人、犠牲者が出たことか。そして・・・その病にかかりかけている人が、目の前にいる」
「・・・手遅れだよ」ブリューノはうつむいた。
「そして、ザレスキー一族の男性も、時として、同じ病にかかることがある」フランソワが言った。「・・・たとえば、ヴィトールド=ザレスキーがそうだ」
 二人はびっくりしてフランソワを見つめた。
「ヴィトールドが、理性を取り戻してくれればいいのだが」フランソワが言った。「このままでは、彼の存在が、思わぬ障害になりかねない」
「・・・前途多難、か」オスカールはそう言った。そして、彼はブリューノの肩をたたいた。「火事になる前に、水をかけておけよ」
 ブリューノは部屋から飛び出すように出て行った。
 双子は顔を見合わせた。しかし、何も言わなかった。
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