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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第57章

第1010回

「わたしには、実は、婚約者がいるの」シルヴィーは話し出した。「彼とは、9月に結婚する予定なの」
 シャルロットは驚いた。「まあ、初耳だわ」
「彼は、わたしのいとこで、アントワーヌ=ダルディというの」
「ダルディ家と言えば、確か、伯爵家だったわね」シャルロットが言った。
「・・・詳しいのね」シルヴィーはため息をついた。「わたしの父は、伯爵家の長男だったの。でも、絵が描きたくて、若い頃家を飛び出してしまったのよ。それで、結局伯爵家は父の弟が継いだのよ。わたしの叔父に当たるその男性は、3年前に亡くなる直前、自分の息子とわたしの婚約を決めてしまったの」
「あなたのところも、親同士が決めた婚約、というわけね」
「・・・正確に言えば、そうじゃないわ。叔父夫婦は、父親を亡くしたわたしのめんどうを見てくれたのよ。そして、叔父も亡くなってしまった。彼は、本来父のものだった家をわたしに返そうとしたのよ。自分の息子も一緒にくっつけてね」
 シャルロットはふきだした。
「でも、叔父はこう言い残したの。もし、ほかに好きな人が現われたら、婚約を破棄してもいいと」シルヴィーが言った。「母は、叔父が亡くなった直後にこの世を去ったわ。そのとき、かの女はこう言ったの。『おまえは、自分の意志で結婚を決められる立場よ。でも、わたしもフェリシアンも、<婚約者の>アントワーヌと結婚することを望んでいるわ』」
 そして、シルヴィーはため息をついた。「わたし、アントワーヌに<ラクリマ>を渡すことになるかどうかわからない。でも、一度大恋愛というのをしてみたかったわ」
 シャルロットはくすくす笑った。「あら、あなたは、アントワーヌさんを愛していないの?」
「わからないわ」シルヴィーは正直に答えた。
「愛していないのに結婚するの?」シャルロットは驚いて訊ねた。
「愛しているというのは、結婚するための必要条件じゃないわ」
 シャルロットはさらに驚いてシルヴィーを見つめた。
「あなたにも婚約者がいるなら、わかるでしょう?」シルヴィーは続けた。「結婚するというのは、いろいろな要素が絡み合った結果なのよ。人間は、愛していない人とでも結婚することはできるわ。結婚は、一つの契約に過ぎないから。その契約の中に愛を含めることも、含めないことも自由だわ」
 シャルロットはさらに目を丸くした。
「愛することは、結婚してからだってできるわ」シルヴィーが言った。「もしかすると、結婚しても、愛することができないかもしれない。それは、わからないわ」
「・・・あなたは、彼を愛してはいないの?」シャルロットは悲しそうに訊ねた。
 シルヴィーはため息をついた。「わからない。少なくても、彼に愛しているかどうか聞かれたことはないし、そう言われたこともないわね」
「それでも、彼と結婚するの?」
 シルヴィーはうなずいた。「そうするしかなさそうだから」
「あなたは、好きな人がいないの?」
 シルヴィーは真っ赤になった。そして、うつむいた。
「・・・好きな人がいるのね?」シャルロットの顔がぱっと輝いた。「あなたは、婚約を破棄する権利を持っている。つまり、相手もあなたが好きなら・・・」
 シルヴィーはもう一度ため息をついた。「そんなに簡単な問題じゃないのよ」
 シャルロットは立ちあがった。「彼と話をしてみるわ」
「・・・彼、って・・・?」シルヴィーは真っ赤になった顔を上げた。「あなた、まさか・・・?」
 そう言ったときには、シャルロットはすでに部屋から出たあとだった。
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