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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第57章

第1015回

 シャルロットは、思わず言い返さずにはいられなかった。「レオン=フランショームは、いくじなしだわ!」
 双子の兄弟は思わず固まった。
「アニェースは、自分の意志でポーランドに帰ったんじゃないわ」シャルロットは続けた。「もし、わたしがレオンだったら、たとえどんな嵐の中であれ、馬車を追いかけたはず。たとえ追いつけなかったとしても、何もせずに去らせるなんて、わたしだったら考えられないわ。アニェースを愛していました、ですって? かの女を奪い返そうともしないで、そんなことがよく言えたものだわ! わたしに言わせれば、これまでのことはすべて、フランショーム家の逆恨みだわ!」
 シャルロットは、そこまで言うと、息を切らせて黙った。
 フランソワの顔に、笑顔が浮かんだ。「・・・よく言った、シャルロット。この家でそんなことを言える女性だったら、コルネリウスとうまくやっていけると思うよ」
「この家・・・?」シャルロットは、自分が<敵の本拠地>にいることを突然思い出した。かの女は真っ赤になった。
 シャルロットの剣幕に驚いていたオスカールも、やがて笑い出した。
「もし、レオンがザレスキー一族でアニェースがフランショーム一族だったら、二人の子孫は今ごろポーランドで幸せに暮らしていたに違いないね」オスカールは笑いながら言った。
「いや、せめてあと100年後だったら・・・」フランソワもにやにやしながら言った。「シャルロットがアニェースだったら、走っている馬車から飛び降りるくらいのことはしただろう」
 シャルロットの顔は暗くなった。「・・・アニェースは、眠り薬を無理矢理飲まされ、ケーニヒスベルクに到着するまで意識がなかったのよ・・・」
 双子はびっくりした。
「かの女は、ケーニヒスベルクで目を覚ましたあと、何度も何度も家から脱走しようとしたそうよ。何としてでもフランスへ戻ろうとしたの」シャルロットが言った。そして、ため息混じりにこう言った。「・・・そのかの女のもとに、フランスのいとこから手紙が届いたの。レオン=フランショームがほかの女性と結婚したという知らせがね。それを読んだアニェースは、自殺を図ろうとまでしたのよ」
 シャルロットは思わず涙ぐんだ。「・・・それでも悪かったのはアニェースのほうだと、あなたたちは言うの?」
「・・・知らなかった・・・」オスカールはかすれた声で言った。
 フランソワの顔からも笑いは消えていた。
 オスカールは突然立ち上がり、ヴァイオリンを手にした。
 彼が口を開こうとしたとき、ブリューノがいきなり部屋に飛び込んできた。
「・・・シルヴィーは来ているか?」
 三人は、息を切らしてドアのところに立っているブリューノを驚いて見つめた。
「かの女はどこだ?」ブリューノはほとんど叫ぶように言った。
「来ていないよ」フランソワが答えた。
「何かあったのか?」オスカールが訊ねた。
 彼は、左手に握られた一枚の紙を彼らの前にさしだした。それは、すでにくちゃくちゃになっていた。そして、彼は右手を開いた。そこには、サファイアの指輪があった。
「・・・<ラクリマ>だわ・・・」シャルロットは茫然としてつぶやいた。
「ラクリマ?」オスカールが繰り返した。
「シルヴィーの指輪よ」シャルロットが言った。「でも、どうして?」
「かの女は出て行ったんだ!」ブリューノが叫ぶように言った。「出て行ってしまったんだ!」
 フランソワはブリューノの手から紙を奪うようにして取った。そこには、突然出て行くことをお許し下さいという言葉しか書かれていなかった。
「・・・どういうこと?」フランソワは顔を上げ、ブリューノに訊ねた。
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