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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第58章

第1025回

 7月8日、シャルロットはようやくグルノーブルに帰ってきた。
 駅でシャルロットを待っていたサヴェルネ夫人は、急いでフランク家に向かおうとしていたシャルロットに言った。
「お待ちなさい、シャル。彼に会う前に、わたしの話を聞いて」
 シャルロットはサヴェルネ夫人を見つめ、うなずいた。
「あなたは、あの<研究所>で育った人間だから、わたしのこんな忠告は無意味かもしれないけど、言わせてね」サヴェルネ夫人が言った。「今月に入ってから、ドクトゥール=ルフェーブルは、フランク氏にほとんどつきっきりなの。もう、何も口にしていないのよ。そして、口を開くと、あなたのことばかり言うの。シャルに会いたい、いまどこにいるの、って・・・」
 シャルロットの顔がくもってきた。
「シャル。お願いだから、そんな悲しそうな顔を彼に見せないでちょうだい。彼は、あなたのほほえみを待っているの。彼は・・・もうすぐ死んでしまうわ。その彼にしてあげられるのは、ほほえみを見せてあげることだけじゃないかしら?」
 シャルロットは悲しそうに目を伏せた。「あなたは、ムッシュー=フランクに気休めを言え、とおっしゃるのですか?」
「いいえ。ほほえんでちょうだい、と言ったのよ」サヴェルネ夫人は辛抱強く言った。「あなたのほほえみは、人々を喜ばせてくれるわ」
「無理に笑っても、誰も喜ばないわ・・・」シャルロットはほとんど泣き出さんばかりだった。
「いいえ、神さまは、喜ばれます」サヴェルネ夫人が言った。「神さまは、あなたが彼を慰めようとすることを喜んでおられます。あなたがほほえむことは、神さまの望みでもあります」
「そうでしょうか・・・? わたし、彼を騙すような気がします」
 サヴェルネ夫人はゆっくり首を横に振った。「あなたが、心からのほほえみを見せるなら、それは真実です」
 そして、かの女はため息混じりに言った。「・・・シャル、あなたは、そのほほえみがどんなにすてきなものか、自分ではわかっていないのね・・・」
 二人はそのまま黙って歩いた。
 フランク家につくと、ヴェルネ夫人がいつもと全く同じように出迎えた。
「こんにちは、ロッティ、シャル。ムッシュー=フランクは、上よ」ヴェルネ夫人はほほえんだ。目が笑っている。いつものようにかの女たちを歓待していた。「彼は、眠っていらっしゃるわ」
 サヴェルネ夫人とシャルロットは、かの女に挨拶すると、階段を上っていった。
 部屋に入ったとき、フランク氏は眠っていた。
 シャルロットはその枕元にひざまずいた。かの女が顔を上げたとき、ベッドの反対側にいた医者と目があった。
「・・・どうか、最後まで希望を捨てないで、おじょうさん」医者がささやいた。
 シャルロットは黙ってうなずいた。
 かの女の視線は、医者の方に向けられた。この人には、なぜか見覚えがある。どこかで会ったことがある人だ。かの女はそっと声をかけた。
「・・・ドクトゥール・・・?」
 医者は優しい茶色の目をかの女に向けた。「なんでしょうか?」
「あなたとは、どこかでお会いしたことがあるような気がするのですが・・・?」
 相手はびっくりしてかの女を見つめた。
 シャルロットはにっこりした。「・・・わかったわ。あなたは、ドクトゥール=スタニスラス=ルフェーブルのお兄さまね?」
「ああ、あなたは、スタニーの患者さんだったんですね?」彼は優しく言った。
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