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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第6章

第100回

 部屋を飛び出したシャロンの後を父親のスタニスラスが追いかけた。
 シャロンは、廊下の突き当たりに飾ってあった母親の肖像画の前で泣いていた。
「・・・シャロン、どうしてトニー叔母様に返事しなかったの・・・?」父親が訊ねた。
 シャロンは振り返った。
 スタニスラスは、息子がこれほど絶望的な表情を浮かべているのを見たことはなかった。彼は、はっとして次の言葉を飲み込んだ。
 ややあって、シャロンがつぶやいた。「・・・わたしは、後悔しています。勇気を出して本当のことを言うんだった・・・」
「本当のこと・・・?」
「わたしには、好きな人がいます」シャロンが言った。「いずれ、かの女と結婚したいと思っていました・・・。トニー大叔母様だったら、きっとかの女が気に入ったはずです・・・」
 スタニスラスはびっくりして息子の顔を見た。
「ああ・・・どうしてはっきり言わなかったんだろう・・・」シャロンは頭を抱えた。
 彼の父親は、息子が苦しんでいるのを見て困ったような表情になった。
 スタニスラス自身も、アントワネットにシャロンとステラを頼む、と言われていたのである。彼もこの縁談には乗り気であった。少なくてもトントンとステラの組み合わせよりはお似合いだ、と思ったのである。そして、彼はステラという少女が気に入っていたからであった。ステラは、トントンの婚約者として何度かこの家を訪ねていた。この婚約がだめになったとき、今後かの女がこの家にこなくなる・・・と考えただけで、彼は寂しくて仕方がなかったのである。彼にとっては、かの女はすでに娘同様の存在だったからである。
「トニー叔母様は、ステラがお気に入りだったんだ」彼は息子に言った。「はじめから、かの女はおまえとステラを結びつけようとしていた。そして、それがかの女の最後の願いだ」
 シャロンはすすり泣いた。
「頼む・・・ステラと結婚して、この家を継いで欲しい」父親が言った。
 シャロンは顔を上げた。「いやです。それだけは、絶対にできません」
「しかし、おまえしかいないんだよ、シャロン」父親が言った。「これは、わたしからの命令だと思ってほしい」
「でも、わたしは、フラニーを愛しているんです!」シャロンは苦しそうに叫んだ。
 そのとき、彼らの後ろで小さな叫び声がした。
 ステラ=ザレスカが口に手を当てて立ちつくしていた。かの女の目には涙があふれていた。
 かの女は、彼らにくるりと背を向け、その場から逃げるように駆けだした。
「・・・聞かれてしまった・・・!」スタニスラスが思わずうなり声を上げた。彼は、自分の髪をかきむしった。「・・・一番聞かれたくないひとに・・・なんてことだ・・・!」
 シャロンはびっくりしたように父親を見つめた。
「・・・かの女は、本当は、おまえを愛していたのだ、シャロン・・・」彼の父親が呻くように言った。「・・・それを・・・わたしたちは、無理に・・・トントンと婚約させたんだよ・・・」
 その言葉を聞き、シャロンはその場にくずおれた。
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