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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第59章

第1045回

 その日、シャルロット=ド=サン=メランもパリにいた。かの女がパリに来た目的も二つだった。一つは、ポーランドから出てくることになっていた親友のバルバラ=ヴィエニャフスカを出迎えること。もう一つは、サン=ナゼールから飛び出していったあとパリに住んでいる親戚のところに滞在しているシルヴィー=ペリゴールと話をすることであった。
 シルヴィーは叔母のスフロ夫人の家にいた。ダニエル=スフロ夫人は、シルヴィーの父の妹にあたる女性だった。その夫アンドレ=スフロ氏は軍人だった。彼らの間には息子が一人いたが、やはり軍人の道を選び、若くして戦死していた。スフロ夫妻は、スフロ夫人のもう一人の兄---シルヴィーの父親の弟であるダルディ伯爵---の遺児であるアントワーヌと一緒に暮らしていた。つまり、今、シルヴィーは自分の婚約者と一緒にいたのである。
 シルヴィーの婚約者アントワーヌ=ダルディは、軍人のスフロに育てられただけあって、たくましい感じの男性だった。シャルロットがこれまであった誰とも違うタイプだったが、しいていえばオーギュスト=ド=マルティーヌを一回り小さくしたような外見に、筋肉という服を一枚着込んだ感じだと思ってみていた。ちょうど士官学校を卒業したところだと言っていたから、もしかするとヴィトールドのことを知っているかもしれないと思ったが、シャルロットは彼にそれを訊ねてみようとは思わなかった。ヴィトールドのことを懐かしがっていると思われたくはなかった。かの女は、人殺しをするために去っていった彼を許したくなかったのである。
 スフロ夫人は、シャルロットを実の娘の友人のようにもてなした。スフロ夫人にとっては、シルヴィーも娘のようなものだったのだ。母親を失ってからは、シルヴィーも休みのたびにスフロ家で過ごすようになっていたからである。アントワーヌが士官学校の寮に入ってしまったあとだったので、スフロ夫人は自分が世話を焼ける相手の存在を歓迎した。そして、アントワーヌとシルヴィーが少しでもうち解けるように気を配ったのである。
 シャルロットは、スフロ夫人の家の居間で、シルヴィーとアントワーヌと一緒に話をした。しかし、どんな話題を選んでも、必ず戦争の話になってしまうことに気づいていた。新聞では連日のように戦争が近いような報道をしているし、人々は戦争の噂をしていた。しかも、スフロ少佐の妻であるダニエルにとっては、戦争は夫の出世にも関わる問題であり、さらに、夏休みが終われば正式に軍人となるアントワーヌにとっても、思ったよりも早い初陣の機会である。この家での戦争の話題は、シャルロットにとっては新鮮な体験だった。さらに、シャルロットは相づちをうちながら彼らを観察してみると、本当に戦争の話題に積極的なのはスフロ夫人だけだということに気がついた。シルヴィーは、本音を言えば戦争には全く関心がないようだった。そして、アントワーヌは、できればこの話題を避けて欲しいという視線をシャルロットに送っていた。シャルロットはそれに気がつくと、逆に不思議な気がした。この人は、軍人なのに、戦争に興味がないのだろうか? だとすれば、どうして士官学校なんかに進学したのだろう?
 やがて、アントワーヌ=ダルディは、話題を変えることに成功した。二人の少女に、自分の部屋を案内する口実を見つけたのである。シャルロットは、彼に協力し、フェンシング大会で準優勝だったときのトロフィーが見たいとせがんで見せた。スフロ夫人は、アントワーヌたちの<計略>には気づかず、「そう。じゃ、一緒にお部屋に行きなさい」と言って3人を送り出したのだった。
 アントワーヌの部屋は、一言で言えば質素な部屋だった。しかし、シンプルに作られてはいるものの、机やタンスなどの家具の素材は立派なもので、実はお金のかかったものであることをシャルロットは一目で見抜いていた。若いダルディ伯爵は、華美な装飾を好まない軍人に育てられただけあって、シンプルなものであっても本物を見抜く目があるようだった。この人は、基本的に芸術家なのだ。部屋にある装飾品---といっても、フェンシングの剣や、トロフィーなどの戦利品群のみだったが---の飾り方を見ていると、彼の趣味の良さがわかる。この人は、単なる軍人ではない。こういう人なら、芸術家であるシルヴィーとはお似合いの夫婦になるだろう。
 アントワーヌは、趣味であるフェンシングや乗馬の大会での記念品を二人の少女に見せた。その口調には、決して自慢は混じっていなかったが、謙遜も混じってはいなかった。彼は、事実だけを話した。シャルロットは彼の人柄にも好感を持った。彼は、自分の生い立ちとシルヴィーとの婚約のいきさつを語った。半分はシャルロットも知っている話だったが、彼の口から聞くシルヴィーの話は、かの女にとっても興味がある話題だった。シルヴィーはこの人にあまり興味を持っていないが、彼の方はかの女を愛していた。彼はそれをほのめかすようなことを一言も言わないし、シルヴィー自身も気づいていないようだが、シャルロットにはそれがよくわかった。
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