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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第6章

第102回

 シャロンは、ルイーズ=アントワネット=ド=ラ=ブリュショルリーと彫られた新しい墓の前に立っていた。
「・・・トニー大叔母様、すべて終わりました・・・」彼は墓に向かって言った。「わたしは、あなたとの約束を果たすために帰ってきました・・・これで、満足ですか?」
 そう言うと、彼は顔を覆ってすすり泣いた。
「・・・わたしは、本当に幸福だと、あなたは今でも思っているんですか・・・?」
「・・・シャロン・・・」誰かが彼の肩をたたいた。
 シャロンは振り返った。そこに彼の姉が立っていた。
「リズィ・・・」シャロンは思わず姉の愛称を呼んだ。その呼び名で呼ぶのは、かの女が結婚して以来初めてのことであった。
 彼の姉エリザベート=ド=フランスは、彼が小さい頃よくしたように彼を抱きしめた。「・・・シャロン・・・かわいそうに・・・」
 かの女は、弟が母親代わりに思っていた女性を亡くして悲嘆にくれているとしか思っていなかった。誰もかの女には事情を説明していなかったのである。かの女は、兄たちの葬式に駆けつけることができず、1ヶ月遅れで墓参りをかねて実家に戻ってきたばかりであった。
 彼は、かの女に、兄が亡くなって以来起こった出来事を説明した。かの女はショックを受けた。
「・・・で、あなたは、ここに戻ってきたのね、すべてを捨てて・・・?」
 彼はうなずいた。再び彼の目に涙があふれた。
 かの女は、遠い目をして、ゆっくり語り始めた。
「あなたも知っていると思うけど、わたしも、親が決めた相手と結婚したわ」エリザベートは、まるで小さい子どもを相手にするような口調で言った。「・・・当時、亡くなったお母さまがおっしゃった。『一度も恋をしたことがないうちに嫁いで、相手の男性に恋する・・・というのが、一番幸せな結婚なのよ』・・・かの女もそうして結婚したそうよ。それでかの女が幸せだったかどうか・・・は、わたしにはわからないけど・・・」
 彼は下を向いた。彼は、自分の母親が幸せだったかどうか、一度も考えたことがなかったことに気づいたのである。
「・・・わたしが結婚したとき、夫には恋人がいたの・・・」
 シャロンはぎょっとして姉を見つめた。
「・・・もちろん、彼はそんなことを言ったことはない。結婚した後は、一度だって浮気したことはないはずよ。でも・・・わかるのよね、そういうことって・・・」エリザベートが言った。「・・・女性には、第六感というのがあるのよ。彼が口に出して言わなくても・・・彼に恋人がいたのは確かだ・・・そういうことは、よくわかるの。男性には、不思議なことかしら?」
 シャロンは黙っていた。
「・・・言わなくてもわかる・・・それだけでもじゅうぶんに苦しいことなのに、あなたのフィアンセは、あなたに恋人がいたことを告げられている・・・しかも、かの女は、あなたを愛している・・・こんな残酷なこと、ってあるかしら?」エリザベートは悲しそうな表情をして言った。
 シャロンには返事できなかった。
「あなたたちは、最初にボタンを掛け違えたのね」エリザベートが言った。「どこかで直さないと・・・とりかえしがつかないことになるわ・・・」
 エリザベートは、シャロンの肩をたたいた。
「あなたたちは、誰から見てもお似合いだわ・・・」エリザベートは、無理に元気を装ったような調子で言った。「『わたしたちは、本当に幸福です』・・・トニー大叔母様にそう報告できる日が来ることを祈っているわ。かの女は、それを望んでいるはず。ほかの誰よりも、かの女は、あなたを愛していたんだもの・・・」
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