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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第59章

第1046回

 そして、アントワーヌは話をこう締めくくった。
「・・・もうすぐ、戦争になります。軍人であるわたしは、戦場に向かうことになるでしょう。シャルロットさん、どうかシルヴィーをお願いします。かの女には、ほかに頼る友人がいないのです」
 シャルロットははっとした。
「まあ、おおげさね」シルヴィーは笑い出した。「シュリー、この人って、ちょっと神経質なのよ。こんなに大きな体をしているのに、意外でしょう?」
 シャルロットは真面目な顔で言った。「言い換えれば、あなたが、彼に愛されている、ってことでしょう?」
 その言葉を聞くと、二人とも真っ赤になった。
「・・・からかわないで」シルヴィーが言った。
「あなたは、すてきなフィアンセを持って、本当に幸せね、シルヴァ」シャルロットはにっこりした。
「シュリー!」シルヴィーはたしなめるような口調で言った。
「・・・それで、結婚式には、招待して下さるのよね?」シャルロットは続けた。
 アントワーヌは真面目な顔になった。「戦争になったら、当分、結婚するのは無理ですね」
「あら、戦争なんて、すぐに終わるわ」シルヴィーがさらりと言った。「新聞には、そう書かれているわ」
「新聞ですって?」シャルロットはからかいの口調をやめなかった。「戦争なんてすぐに終わって欲しい、そうすれば、すぐに結婚できるわ、って、どうして素直に言えないのかしら?」
 シルヴィーはこれ以上赤くなると思えないくらい真っ赤になった。
「・・・あなたらしくもない」シャルロットはさらりと言い、アントワーヌにほほえみかけた。
 アントワーヌもかの女にほほえみかえした。
 シルヴィーは立ち上がり、こう言った。「いい、おぼえてらっしゃい。いつか、あなたがフィアンセと一緒に結婚の挨拶に来たら、二人とも真っ赤なペンキの海に投げ込んだような色にしてあげるから」
「・・・あら、それは楽しみですこと」シャルロットはそう言い返した。
 シルヴィーがそう言いながら席を外すと、アントワーヌの表情が急に真剣みを帯びた。
「シャルロットさん、どうかシルヴィーをお願いします」アントワーヌはもう一度同じことを言った。「戦争になれば、わたしは戦場に行かなくてはなりません。軍人ですから。生きて帰れるかどうかわからないような危険なところに行くことになるかもしれません。そもそも、戦争というのは、殺すか殺されるかなのですが・・・」
 シャルロットは青ざめた。
「・・・シルヴィーは楽観的すぎます。わたしの身に何かよくないことが起こる可能性なんか、全く考えていないのです。それどころか、戦争が危険なものだなんて考えていないのではないでしょうか。いいえ、それ以前に、戦争が悪いことだなんて考えてもいないんじゃないかと思います」
 シャルロットの表情はこわばってきた。
 アントワーヌはかの女にほほえみかけた。「・・・驚かないで、シャルロットさん。あなたは、戦争を心の底から憎んでいます。わたしには、それがわかります。わたしも同じだからです」
 シャルロットは、かすれた声で訊ねた。「・・・そんなに戦争がお嫌いなら、どうして軍人になろうとしたのですか?」
「フランスを愛していて、祖国を守るため---いいえ、あなたには、正直にお答えしましょう。そこに住んでいる大切なひとを守るためです」アントワーヌが答えた。
「つまり、シルヴィーを守るため・・・?」
 アントワーヌはうなずいた。
「でも、何も、軍人にならなくたって・・・」
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