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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第59章

第1056回

 バルバラは肩をすくめた。「本当のことを言うと、わたしがグディニアから出ることに、ミエテクはあまり乗り気ではなかったのよ。レショフスキー夫妻が彼に何を吹き込んだのかわからないけど、彼は反対したのよ。わたしは、ミュラーユリュードに戻りたかったし、もっと音楽を勉強したかった。わたし、この一年間、ミエテクに手紙で何度訴えたかわからない」
 シャルロットは優しく言った。「でも、こうやって、フランスに戻れたでしょう?」
 バルバラはため息をついた。「・・・鎖つきで、ね」
 シャルロットは驚いたようにかの女を見た。「あなた、ミエテクが嫌いだったの?」
 バルバラはふっと目をそらした。「わからない。いいえ、わからなくなったの」
 二人は、しばらくの間そうやって黙っていた。
 やがて、バルバラは淡々とした口調で話し始めた。「・・・わたしたちは、あなたたちと同じく、生まれたときからお互いの両親によっていずれ結婚することに定められた仲だった。そして、幼なじみとして育ったの。やがて、彼がフランスに行くとわかり、わたしも両親を説得して同じ学校に入ったの。でも、本当のことを言うと、レショフスキー夫妻はそれを望んではいなかったのよね。彼らは、わたしがグディニアの学校に入ることを望んでいた。それも、女子だけの、規律の厳しい学校に・・・」
 シャルロットは口をはさまずに聞いていた。以前、誰かに、これと似たような告白をされたことがあるような気がする。
「両親も、レショフスキー夫妻も、わたしが教会の聖歌隊で歌う以上のことをして欲しくはないのよ。でも、誰もが、わたしには歌の才能があると言うわ。サント=ヴェロニック校では、もっと上の学校に行って勉強しなさいと言われたし、わたしもそうしたいと思っているわ」バルバラはそう言うと小さくため息をついた。「だけど、それがいったい何のためになるのだ、と彼らは言うの。彼らがわたしに望んでいるのは、わたしがミエテクのいい奥さんになることだけ。レショフスカ夫人が歌の才能をどうしようと、彼らにはどうでもいいことなの」
「でも、ミエテクは?」シャルロットが言った。「大切なのは、レショフスカ夫人のことをレショフスキー氏がどう思うか、じゃないの?」
 バルバラはシャルロットをじっと見つめ、もう一度ため息をついた。そして、こう言った。
「・・・この一年、ミュラーユリュードで何が起こったか、わたしにはわからない。サン=スーシィも、わたしと同じようなことになっているしね。ショップもスイスに行ってしまったし、ドリーはあまりまめな方じゃないから、クリスマス=カードくらいしかよこさないわ。それに、フランス国籍の子たちとはもともとそれほど親しくはなかったし・・・」
「あら、ヴィルヘルミーネも、<花嫁修業>をしているの?」シャルロットが訊ねた。この一年、かの女とは文通をしていなかった。てっきりミュラーユリュードにいるものだと思っていたが、そういえば、6月に姿を見かけなかった・・・。
「そうみたい」バルバラが言った。
 そして、かの女は、ここに来る途中にヴァイマールを訪問した話をした。寮でバルバラの同室だったヴィルヘルミーネ=フォン=シュヴァルツベルクは、いとこにあたる10歳年上の青年と婚約したということであった。彼は、プロイセンの軍人の家に生まれ、彼自身も軍人であった。話の最後に、バルバラはこう言った。
「サン=スーシィから伝言を頼まれたの。『戦争になっても、わたしのこと、嫌いにならないでとプティタンジュに伝えて』と・・・」
 シャルロットは涙ぐんだ。「嫌いになるものですか! わたしたちは、何があっても、いつまでも友達だって誓ったじゃない!」
「ええ、その通りよ」バルバラが言った。
 シャルロットが卒業して寮を去るとき、三人はそう誓い合った。それから一年後、三人とも学校を去っているとは、そのときには誰も思わなかったのに・・・。まもなく戦争になるかもしれない。そして、敵味方に分かれることになるかもしれない・・・。
 バルバラは、急に元気のいい声を出した。
「・・・そういえば、あなたのほうはどうなの?」
「どう、って?」シャルロットは涙にぬれた顔を上げた。
「あなたとマルフェのことよ」
 シャルロットは少し赤くなった。「彼とは、一度しか会っていないのよ。話すようなことなんか何もないわ・・・。でも、あなたがミュラーユリュードのことを聞いていないと言うのなら、話が一つあったわね」
「あなたとマルフェのことで?」
「ミュラーユリュードの話題」シャルロットは涙を拭いて立ちあがった。「・・・その前に、お食事でもいかが?」
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