二人は、その晩泊まるところを確保してから食事に出かけた。
食事が始まってから、シャルロットはやっとミュラーユリュードの話題にふれた。演劇コンクールのこと。そして、6月のコンサートのこと・・・。
「6月14日に、サン=クロード街がパトリック=ド=メディシス街に名前が変わったの。そして、それを記念するコンサートが開かれたのよ。元の2年7組と、現在の1年生を中心とした有志でね」
バルバラはがっかりしたように言った。「まあ。知らなかったわ。もし、知っていたら行きたかったわ」
そして、残念そうに付け加えた。「・・・わたし、<雨の歌>くらい歌ってあげたのに・・・」
シャルロットはにやりとした。「そうね。独唱があってもよかったわね。でも、あの曲を歌ったら、ピッコリーノがいやな顔をしたんじゃないかしら・・・」
「『あれは、<雨の歌>じゃない!』」二人とも同時にそう言い、笑い出した。
「だから、クラウディウス=シャイデマンは、コンサートのために作った曲に<雨の歌の主題によるファンタジーとフーガ>というタイトルをつけたのよ」シャルロットはいたずらっぽく笑った。
「クラウディウス=シャイデマン」バルバラは懐かしそうに言った。「・・・暴君の作曲の腕前は上がった?」
シャルロットがきょとんとしていると、バルバラは説明した。「彼は、そういうあだ名だったのよ。わたしたち、彼と同級生だったことは知っているでしょう?」
「・・・あだ名を付けるのは<7組>の伝統だったのね?」一瞬間があったあと、シャルロットが言った。
「ええ、入学したときから、ずっとよ」
「あなたと彼が同級生だったとは知らなかったわ」シャルロットが言った。「でも、シューザンと彼が同級生だったということは、あなたとも同級生だったということよね。なんだか、ピンとこなくて・・・」
そして、シャルロットはこう言った。「彼の先生のアルマン=リヴィエールは、曲についてこう言ったそうよ。『彼のフーガには、緻密さがない』と」
バルバラは笑った。「つまり、相変わらずということね」
「立派な作品だったと思うんだけど・・・」シャルロットは考え込むように言った。
バルバラはサラダをつつきながら言った。「ねえ、ほかに何が演奏されたのか教えて」
「あなたが、かわいそうなセロリをいじめなければね」シャルロットがバルバラに言った。
バルバラは『・・・わたしがセロリが嫌いなのは知ってるでしょう?』とつぶやいた。そして、フォークを置いた。
シャルロットは演奏会の曲目を順番に言った。
「モマン=ミュジコーが、ピアノを弾いた・・・?」バルバラは目を丸くした。
「ええ、とてもすばらしい演奏だった。ただ、ほとんどの人は、それを聞いていなかったと思うんだけど・・・」
バルバラは驚いて訊ねた。「なにか、あったの?」
「ただ、雨が降ってきただけよ」シャルロットが答えた。「ただし、ひどい土砂降りだったけど。だから、聞いていなかったと言うよりは、聞こえなかったという方が正解かもね」
「彼は、何を弾いたの?」
「<テンペスト>よ」
バルバラは笑い出した。
「冗談じゃないのよ」シャルロットが言った。「彼は、土砂降りの野外ステージで、あれを全曲弾いたのよ。その結果、どうなったかというと・・・」
「そうねえ、ピアノが一台だめになったでしょうね」バルバラは半分冗談のような口調で言った。
シャルロットはバルバラをにらんだ。「あら、モマン=ミュジコーの心配は?」
「彼が風邪をひいて倒れた、なんて考えられないわ」バルバラはすまして答えた。
シャルロットはため息をついた。
「だって、そうなんでしょう?」
シャルロットは仕方なさそうにうなずいた。そして、二人は大笑いした。
食事が始まってから、シャルロットはやっとミュラーユリュードの話題にふれた。演劇コンクールのこと。そして、6月のコンサートのこと・・・。
「6月14日に、サン=クロード街がパトリック=ド=メディシス街に名前が変わったの。そして、それを記念するコンサートが開かれたのよ。元の2年7組と、現在の1年生を中心とした有志でね」
バルバラはがっかりしたように言った。「まあ。知らなかったわ。もし、知っていたら行きたかったわ」
そして、残念そうに付け加えた。「・・・わたし、<雨の歌>くらい歌ってあげたのに・・・」
シャルロットはにやりとした。「そうね。独唱があってもよかったわね。でも、あの曲を歌ったら、ピッコリーノがいやな顔をしたんじゃないかしら・・・」
「『あれは、<雨の歌>じゃない!』」二人とも同時にそう言い、笑い出した。
「だから、クラウディウス=シャイデマンは、コンサートのために作った曲に<雨の歌の主題によるファンタジーとフーガ>というタイトルをつけたのよ」シャルロットはいたずらっぽく笑った。
「クラウディウス=シャイデマン」バルバラは懐かしそうに言った。「・・・暴君の作曲の腕前は上がった?」
シャルロットがきょとんとしていると、バルバラは説明した。「彼は、そういうあだ名だったのよ。わたしたち、彼と同級生だったことは知っているでしょう?」
「・・・あだ名を付けるのは<7組>の伝統だったのね?」一瞬間があったあと、シャルロットが言った。
「ええ、入学したときから、ずっとよ」
「あなたと彼が同級生だったとは知らなかったわ」シャルロットが言った。「でも、シューザンと彼が同級生だったということは、あなたとも同級生だったということよね。なんだか、ピンとこなくて・・・」
そして、シャルロットはこう言った。「彼の先生のアルマン=リヴィエールは、曲についてこう言ったそうよ。『彼のフーガには、緻密さがない』と」
バルバラは笑った。「つまり、相変わらずということね」
「立派な作品だったと思うんだけど・・・」シャルロットは考え込むように言った。
バルバラはサラダをつつきながら言った。「ねえ、ほかに何が演奏されたのか教えて」
「あなたが、かわいそうなセロリをいじめなければね」シャルロットがバルバラに言った。
バルバラは『・・・わたしがセロリが嫌いなのは知ってるでしょう?』とつぶやいた。そして、フォークを置いた。
シャルロットは演奏会の曲目を順番に言った。
「モマン=ミュジコーが、ピアノを弾いた・・・?」バルバラは目を丸くした。
「ええ、とてもすばらしい演奏だった。ただ、ほとんどの人は、それを聞いていなかったと思うんだけど・・・」
バルバラは驚いて訊ねた。「なにか、あったの?」
「ただ、雨が降ってきただけよ」シャルロットが答えた。「ただし、ひどい土砂降りだったけど。だから、聞いていなかったと言うよりは、聞こえなかったという方が正解かもね」
「彼は、何を弾いたの?」
「<テンペスト>よ」
バルバラは笑い出した。
「冗談じゃないのよ」シャルロットが言った。「彼は、土砂降りの野外ステージで、あれを全曲弾いたのよ。その結果、どうなったかというと・・・」
「そうねえ、ピアノが一台だめになったでしょうね」バルバラは半分冗談のような口調で言った。
シャルロットはバルバラをにらんだ。「あら、モマン=ミュジコーの心配は?」
「彼が風邪をひいて倒れた、なんて考えられないわ」バルバラはすまして答えた。
シャルロットはため息をついた。
「だって、そうなんでしょう?」
シャルロットは仕方なさそうにうなずいた。そして、二人は大笑いした。
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