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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第59章

第1058回

 シャルロットは、自分が知っている1年7組の近況を伝えた。そうしている間に食事が終わり、二人はレストランを出た。その頃には、あたりが暗くなってきていた。二人はホテルに向かって歩き出した。
「ここに来て、わたし、考えを変えたの」バルバラはいきなり話し出した。「どうやら、戦争になりそうな気がするの。そうしたら、パリで勉強をするのは難しいわ」
「どうして?」
 バルバラは真面目な顔で言った。「だって、わたし、ドイツ国籍ですもの」
 シャルロットははっとして立ち止まった。
「わたし、このままジュネーヴに向かおうと思うの」バルバラは続けた。「もちろん、親には事後報告ということになるけど。手紙は、スイスから出した方が良さそうね」
「事後報告・・・」シャルロットは絶句した。
「本当は、アメリカに行きたいの」バルバラが言った。「フィラデルフィアというところに、アンダースン夫人という有名な声楽家がいるの。わたし、かの女に習いたいのよ」
「アメリカですって?」シャルロットはますます驚いた。「そんなこと、ミエテクが---あなたのご両親だって、認めるとは思えないわ」
「わたしもそう思うんだけど」バルバラはにっこりした。「あなたが、ヴァイオリン界の第一人者という先生についているのに、わたしがそうしていけないなんて」
「それはそうかもしれないけど・・・」シャルロットは複雑な表情をした。「でも、わたしが勉強することは、誰にも反対されていないわ」
 バルバラはため息をついた。「そうね。あなたがうらやましい」
 シャルロットは、その言葉を聞くと、すまなそうに下を向いた。
「もし、戦争が1年で終わって、ミエテクがパリに出てくるようなら、わたしはここに戻ってくるわ。でも、もし、そうじゃなかったら・・・」
 そういうと、バルバラはしばらく黙って歩き続けた。
「ねえ、バーシャ、どうしてもアメリカに行きたいの?」シャルロットが沈黙を破った。
「ええ。でも、どうして?」
「クラスの予言者を覚えている? 彼は、あなたに海に出るなと忠告したわ」シャルロットは不安そうにいった。「まさかあなたが忘れているとは思わないけど、アメリカに行くには、海を渡らなくてはならないわ」
「予言者なんて・・・」バルバラがばかにしたように言った。かの女はそう言い終わると、顔をぱっと輝かせた。「あなたは、大丈夫なのよね? あなたは、海では死なない。ねえ、アメリカについてきてくれない、ブローニャ?」
 シャルロットは絶句した。「わたしが?」
「だって、あなたは、長生きするのよね。あなたが一緒なら、嵐が来ても死なないわ。あなたと一緒にいれば、海はわたしの敵じゃない」
「でも、あなただけ溺れたら?」
「あら、助けてくれないの、プティタンジュ?」
 シャルロットは悲しそうに言った。「わたし、スターシが溺れているのを助けてあげられなかったのよ・・・」
「でも、あのときは、あなたは子どもだった」
「今でも、子どもよ」シャルロットはうなだれた。
「いいえ、あなたは子どもじゃないわ」バルバラが言った。「もう、大人用のヴァイオリンだって持っているし」
 シャルロットは無理に笑おうとした。
「とにかく、あなたと一緒にいたい」バルバラが言った。
「あのね、バーシャ、海で死ぬと言っても、溺れて死ぬとは限らないでしょう。たとえば、心臓発作とか、ナイフで刺し殺されるとか・・・」
「・・・毒を盛られるとか?」バルバラは片目を閉じた。
 シャルロットは「まあ!」と言って絶句した。
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