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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第59章

第1059回

「とにかく、考えておいてほしいの」バルバラはそういってあたりを見回した。
 シャルロットも足を止めた。
「・・・ここは、どこかしら?」バルバラは不安そうにシャルロットを見た。
 あたりはだいぶ人が出ていた。道路が混乱しているようだった。どこかでサイレンが聞こえる。
 シャルロットもあたりを見た。
「・・・誰かに道を聞くか、タクシーに乗るしかなさそうね」シャルロットはそう結論づけた。
 かの女たちは、ますます人が集まっていく方向と逆のルートを取った。人だかりの方に行けば、間違いなく渋滞に巻き込まれ、目的地に着くのが遅くなってしまう。
 どうにか大通りに出ると、バルバラはタクシーを止めた。
 運転手は、不機嫌そうに二人を見た。二人が行き先を告げると、彼はますます不機嫌そうな顔をした。
「・・・あんたたち、まさか、逃げているんじゃないだろうね?」運転手は二人に言った。
「逃げる?」シャルロットは不思議そうに訊ねた。
「だって、あっちから来ただろう? 皆、向こうに向かっているのに」
「わたしたちは、ホテルに戻りたいだけです」シャルロットは穏やかに説明しようとした。「わたしたち、何か悪いことをして逃げているように見えますか?」
「・・・しかし、シャルロット=コルデーも女性だったじゃないか」運転手はバルバラを見ながら言った。
「シャルロット=コルデー?」シャルロットは首をかしげた。「ええ、シャルロット=コルデーは女性でしたけど・・・?」
 そう言うと、かの女は青ざめた。「・・・誰か、暗殺されたんですか?」
「暗殺かどうかはわからないが、ジャン=ジョーレスが殺されたらしい」
 シャルロットはますます青くなった。そういえば、さっき、ヴィトールドが『ジャン=ジョーレスを暗殺しようとする動きがある』と言っていた。まさか、彼がこの件に関わっていたら?
 運転手は急に真顔になった。そして、シャルロットが青ざめていくのを見つめ、こう言った。
「・・・やはり、あなたたちは、無関係ではなかったんですね?」
 バルバラはびっくりして否定した。「馬鹿なことをおっしゃらないで」
 運転手は、バルバラの言葉のドイツ語なまりに気づいた。「・・・いや、あなたがたは、ジョーレスの味方だったんですね? ドイツの社会主義者の方ですか?」
 バルバラは首を横に振った。
「仮に、わたしたちがそうだとしたら?」シャルロットは挑戦するような口調で訊ねた。
 運転手は肩をすくめた。「・・・いや、ありえませんね。このお嬢さんはともかく、あなたは純粋なフランス人だ。しかも、<お嬢さま>と呼ばれる階級の方だ。話し方を聞けばわかります。どうしてもというのなら、ホテルまで車を出しますが、女性の二人連れなら、もう少し防犯がしっかりしているところに泊まることをおすすめしますがね」
「どうせ、今晩だけよ。それに、この時間では、ほかのところを探すのは難しいわ」シャルロットが言った。「お願いします、運転手さん」
 彼はうなずき、エンジンをかけた。
 シャルロットは、最後にもう一度人だかりのしている方を見た。救急車が到着したようだ。
『ぼくは、人間を信じるよ。そして、戦争のない未来をね・・・』オスカール=フランショームの声が聞こえたような気がした。
 シャルロットは前を見た。
 それを合図にしたかのように車が動き出した。
 かの女は、その雑踏から遠ざかるにつれて、自分が平和な世界からどんどん離れていくような気がした。
 戦争は、すぐそこまで迫っていた。
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