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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第60章

第1063回

「かわいい犬ですね。撫でてもいいですか?」シャルロットはほほえんで訊ねた。
「・・・ええ、どうぞ」
 シャルロットは犬に近づいた。犬はしっぽを大きく波打たせ、まるで笑っているような表情で舌を出した。シャルロットは伏せている犬の前でしゃがみ、犬を撫でた。犬のしっぽは、もうちぎれんばかりに動いていた。
「この子、何という名前ですか?」シャルロットは夫人を見上げた。
「チアーです」
「チアー」シャルロットは犬に声をかけた。犬は大きな体を反転させ、おなかを見せて横になった。「・・・いい子ね」
「あなたは、犬が好きなのね。動物は、自分を愛してくれる人には、嘘をつかないわ」
 それを聞いてシャルロットは立ちあがった。
 かの女は、優雅な身振りでお辞儀をした。「すみません、マダム。犬の名前を先にお聞きして、礼儀知らずだと思われたでしょう。わたしの名前は、シャルロット=ド=サン=メランです」
「わたくしは、ミセス=ジョー」女性はそう言って手をさしだした。「・・・あなたは、海が好きなんですね?」
 シャルロットは握手してから答えた。「ええ、大好きです。それに、犬も好きです」
 女性はほほえんだ。そして、犬に「伏せ」とフランス語で言った。
 犬はまだしっぽを振ったまま伏せの体勢に入った。
「この犬、フランス語がわかるんですか?」シャルロットはジョーに訊ねた。
「わたくしの言うことしか聞かないように、フランス語でしつけました」
 シャルロットはうなずいた。この女性は、フランス語も英語も堪能だ。話す調子を聞く限り、母国語は英語らしい。どちらの言葉も、発音が明瞭で、しかもとても魅力的な声の持ち主だ。やはり、この人は女優だ。シャルロットは犬の方を見ながらそう思った。
「あの、シャルロットさん?」その声で、シャルロットは足元の犬から女性へ視線を戻した。
「よかったら、シャルと呼んで下さい」シャルロットはそう言った。
「じゃ、そうさせてください」女性は優しく言った。「よろしかったら、わたくしどもの部屋に来ていただけますか? 妹のミセス=ロリンズにも紹介したいのですが」
「ありがとうございます」シャルロットはにっこりして答えた。
 ジョーはゆっくりと---足を引きずっていることがほとんどわからないくらいの早さで---歩き出した。足元の犬はゆっくり起きあがり、かの女の後に従った。シャルロットはその後ろをついていった。
《トビアスと犬。わたしは、さしずめ、大天使ラファエルという役回りかしら?》シャルロットは心の中でそう思った。
 案内された部屋の中には、やはり40歳くらいのブリュネットの女性がいた。その女性は、本を読んでいたらしい。テーブルの上には、読みかけた本が開いたまま置かれていた。
「パティ、紹介するわ。こちらの方は、ミス=シャルロット」ジョーがブリュネットの女性に言った。「シャル、こちらは妹のミセス=ロリンズよ」
「シャルロット=ド=サン=メランです」シャルロットは挨拶した。「シャルと呼んで下さい」
 ロリンズ夫人は、失礼にならない程度にかの女を見つめた。「ミセス=ロリンズです」
 そして、ジョーに言った。「本当に、天使のような女の子ね」
 ジョーは真っ赤になった。
「ジョーはね、あなたに会うために散歩をしていたの」ロリンズ夫人はそう続けてシャルロットを困惑させた。
「パティ!」ジョーは妹をたしなめた。
「ところで、あなたは、どちらまでいらっしゃるの?」ロリンズ夫人は、シャルロットに座るように手で合図しながら訊ねた。
「フィラデルフィアに行こうと思っています」シャルロットは正直に答えた。
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