FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第6章

第104回

 シャロンは、そういった<伝説>には興味がない方である。
 しかし、彼は、妻のまわりをうろついている赤毛の男性の存在が気になりだしていた。
 これまで、彼は、かの女のサークルの人間にも興味を持たなかった。いや、あえて興味を持たないようにしていた。ただ一度だけ、彼はその誓いを破りかけた。そのサークルの中に、コンセルヴァトワール時代の友人が入っていたのを見たときである。
 その友人は、とんでもない事実を彼に告げた。
 フランソワーズ=ド=ラヴェルダンは、生まれたばかりの子どもを連れて失踪した・・・という噂がある・・・というものである。
 シャロンは、その噂を聞いてうちのめされた。自分が捨てた女性が、なんと自分の子どもを身ごもっていたという事実を知らされたからである。もし、それを知っていたら、絶対に違う道を選択していただろう・・・彼はそう思った。すべて手遅れである。こんなことになる前に、かの女を助けたかった・・・。
 そして、彼はさらに自分の殻に閉じこもってしまったのである。
 あの赤毛の男が、彼を殻から引き出した。
 あの男は危険だ、彼はそう思った。あの男は、ステラを愛している・・・彼はそう直感したのである。
 その日の夜も、かの女のサロンが開かれる予定になっていた。
 シャロンとステラは、いつものように一緒に軽い夕食を取った。彼らは、いつものようにほとんど話をしなかった。ただ、ステラは、彼がいつもとどことなく違うことに気づいていた。
「・・・シャロン、何かあったの・・・?」ステラが訊ねた。
 シャロンは「きみが心配するようなことは、なにもないよ」と答えた。
 ステラは、まだ心配そうに彼を見つめていた。
 彼は、そんなかの女にほほえみかけた。かの女は、彼のほほえみに対しほほえみかえした。
「・・・それなら、いいんだけど・・・」ステラは、ほとんど彼に聞こえないくらいの声で言った。そして、かの女は立ちあがった。
「シャロン、今晩は、あなたも来てみない?」ステラは珍しく彼を自分のサロンに誘ってみた。かの女は、彼にほほえみかけられて、久しぶりに誘ってみようという気になったのである。
『行かないよ』という返事が返ってくることは確実だった。これまで、彼はかの女が何度誘っても、かの女のサークルに顔を出すことはなかったのである。そのうちに、かの女もいつの間にか誘わなくなっていたのである。
 彼はかの女に対してまだほほえんでいた。「・・・いいや、遠慮しておくよ。でも、誘ってくれてありがとう・・・」
 ステラは驚いた。彼が断わることは、初めからわかっていた。かの女が驚いたのは、彼が『誘ってくれてありがとう』と言ったからである。彼は、これまで一度だってそんなことを言ったことはなかったのである。
 彼の方は、かの女が驚いた理由を誤解した。彼は混乱しかけていたのである。いつだって、かの女の誘いに乗ったことはない。なぜ、今日に限って驚くのだろうか?・・・だいたい、なぜ今日に限ってサロンに誘ったりしたのだ? 彼にはまったくわからなかったのである。
 かの女は、彼の表情を見ると、ほほえみをひっこめた。そして、ゆっくりとその場を去っていった。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ