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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第1章

第11回

「フラニー、ごめん」男が口を開いた。
 フランソワーズは思わず遮った。「あなたから、謝罪は聞きたくない。謝ってもらったら、自分がみじめになるだけだわ。わたしは、幸せだったのよ・・・」
 そこに立っていたのは、かの女の元の恋人、アレクサンドルの父親、ルイ=フィリップ=ド=ルージュヴィルだった。
 男は、さらに口を開いた。しかし、言葉は出てこなかった。
 そこへヴァイオリンを持ったままのクラリスが現われた。
 男は、クラリスを見て、ぎょっとしたような表情を浮かべた。
 フランソワーズは、思わずクラリスの方へ目を移した。そのとき、フランソワーズは、初めてクラリスを見たときに感じた感覚を思い出した。どこかで見たような、そんな感覚・・・。わかった、この子は、この人に似ているんだ! でも、どうして?
「・・・驚いた、この子は、ステラと同じ目をしているんだね・・・」男が言った。
 ステラというのは、彼の妻の名前である。
「まさか」フランソワーズは、思わずそう言った。
 クラリスは、男の方を見、小首をちょっとかしげた。その様子を見て、男はさらに驚いた。それは、彼の妻となった女性のくせと同じものである。そして、そのしぐさをした女の子は、驚くほど彼の妻に似ていたのである。
「クラリス、アレックスを呼んできてちょうだい」フランソワーズがクラリスに言った。
 クラリスの後ろ姿を見ながら、男は言った。
「・・・アレックスに会ってもいいの?」
「息子に会ってみたくないの? もっとも、名乗るかどうかは、あなたにまかせるけど」フランソワーズは言った。
 男は、黙ったままであった。
「あなたは、幸せ?」フランソワーズが訊ねた。
「わからない」男は答えた。
「相変わらず、不誠実な人ね」フランソワーズが小さい声で言った。「すなおに、幸せだったとおっしゃい。わたしは、あなたが幸せだったと思っている方がいいわ。だって、わたしも幸せだったもの」
「・・・子どものことは、責任を取りたいと思っている・・・」
「どんな責任を?」フランソワーズが訊ねた。
「きみには、恋人はいるの?」
 フランソワーズは、ほほえんだ。「ええ、いるわよ」
『絶対にわたしをうらぎらない「音楽」という恋人がね』と心の中で付け加えた。
「・・・だから、あなたは、自分の奥さまに責任を持つべきだわ」フランソワーズが続けた。
 アレクサンドルがやってきた。
「・・・きみが、アレックスか? 大きくなったね」男は、月並みな挨拶をした。
「アレクサンドル=ド=ラヴェルダンです」アレクサンドルが男に挨拶した。
「アレックス、この方は、あなたのチェロのかつての持ち主よ」フランソワーズが言った。
 アレクサンドルは、目の前の男性が自分の父親だとわかった。しかし、彼を父親と呼んではいけない・・・と心の中で命令されたように感じた。
「ぼくに、チェロをくださってありがとうございます。一生大事にします」アレクサンドルが答えた。
 フランソワーズは、かつての恋人を見た。男は、かすかにうなずいた。それを見ていて、これがこの人には一番の罰なのかもしれない・・・と思ったのである。
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