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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第6章

第105回

 その晩、ステラの部屋から遅くまでヴァイオリンの音色が聞こえていた。
 フレデリック=ダルベールは、ずっとステラを独占していた。彼は、かの女に伴奏させて何曲も何曲も演奏した。客たちのほとんどが帰った後になって、彼はやっと演奏をやめた。
 彼をよく知る人たちは、彼に忠告し続けていた。彼の片思いは、何があっても報われることはない。いいかげん目を覚ましなさい・・・と。何があっても、ステラが彼の方を向くことはありそうもないことだと誰もが思っていた。かの女が夫を愛していることは、誰の目にも明らかだったからである。
『わたしは、初恋の男性と結婚したの・・・』かの女は、サロンに集まる人たちに絶えず繰り返していた。誰もがそれを知っていたのである。
 しかし、恋をする男性には、何も見えなくなっている。彼には、かの女が不幸だということしか見えていなかったのである。
 二人きりになったとき、フレデリックは口を開いた。
「・・・ステラ、ぼくと一緒に、人生をやり直しませんか?」
 ステラはびっくりして後ずさりしようとした。彼はすかさずかの女の手を取った。
「あなたは、ここにいても幸せにはなれない。ぼくなら、あなたにほほえみを取り戻すことができる」
 ステラは首を横に振った。
「・・・あなたは、自分が幸せだと思いこもうとしているだけだ」フレデリックはさらに言った。「彼はあなたを愛していない。だけど、ぼくはあなたが好きだ」
 ステラは悲しそうな顔をした。
「目を覚ましなさい、ステラ。あなたは、このままでは、幸せにはなれない」彼は続けた。「お願いです、ぼくと一緒にここを出ましょう」
「・・・わたしは、彼を愛しています。おわかりでしょう、リック?」ステラは、やっとそれだけ言った。
「彼は、あなたにふさわしい男性じゃない」フレデリックが言った。
 そのとき、二人の後ろで声がした。
「・・・あなたこそ、そうではありませんか? こんなところで、何をしているんです?」
 二人は振り返った。
「妻から離れなさい。そして、いるべきじゃないところから出て行きなさい」シャロンが容赦ない口調で言った。
 ステラは彼の手から自分の手を引き抜いた。
「いやです。あなたと一緒にいたら、かの女は不幸になる」フレデリックがシャロンに言った。「ぼくは、かの女を愛しています。かの女をこれ以上不幸にしたくありません」
 シャロンは冷たい目つきで彼を見つめた。
「あなたには、かの女を幸福にすることはできない」フレデリックがさらに言った。
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