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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第6章

第107回

 ステラ=ド=ルージュヴィルが最初の子どもを出産したのは、1875年3月5日のことであった。
 かの女は、自分が妊娠していることがわかると、パリの屋敷で出産することを希望した。シャロンは、妻の希望を叶えるために、何人かの使用人と共にパリに移った。もちろん、カロリーナ=ロストフスカも同行していた。
 子どもは女の子であった。
 ステラは幸福であった。
 かの女は、子どもを見つめながら思った。
 自分の子どもを見ているのって、何と幸福なことだろう。子どもが自分にほほえみかけるのを見ると、自分も幸せだと思う。かの女は、彼の昔の恋人のことを思った。あの女性は、絶対に自殺なんかしない。自分の子どもがこうやってほほえみかけるのを見たら、幸せだと思わない母親がいるだろうか・・・?
 子どもは、マリー=クリスティアーヌと名付けられた。マリーはステラの母親の名前、クリスティアーヌはシャロンの祖母の名前であった。
 子どもの誕生を祝って、シャロンは小さなメダイをプレゼントした。それは、この家に代々伝わる習慣であった。女の子が誕生した場合、子どもにド=ルージュヴィル家の家紋が入ったメダイを贈るのである。シャロンは、そのメダイの裏側に子どもの名前と生年月日を刻んだ。
「これを身につけていれば、幸せになるんだって。幸せになるんだよ、クリス・・・」シャロンは、まだ首もすわらない小さな女の子の首にメダイをかけた。
 これを見ていたステラは、さらに幸せな気分を味わった。子どもは父親似であった。ただ、目を開くと、その目だけはステラと同じブルーであった。
「幸せよね、クリ・クリ・・・」ステラは幼児語で子どもに話しかけた。
 子どもは、ぱっちりと目を開き、ステラに向かって握りしめたちいさな手を振った。
 ステラは、思わず子どもを小さなベッドから抱き上げ、優しく揺すった。そして、ポーランドの子守歌を静かに歌い出した。
 カロリーナは、目を閉じて懐かしい子守歌を聴いていた。
 これまでに、こんなに穏やかな日々があったろうか・・・? カロリーナは思った。
 シャロンは、ステラに言った。
「あすは、子どもの洗礼式だけど、名付け親を誰に頼んだらいいだろう?」
 ステラはちょっと首をかしげた。「あら、あなたに人選をお願いしていたと思ったんだけど・・・?」
「うん・・・」シャロンはちょっと赤くなった。「実は、決められなかったんだ・・・」
 ステラはほほえんだ。「そうね、誰でもいい、ってわけにもいかないものね・・・」
「代母は、姉に頼むつもりでいた。でも、グルノーブルから駆けつけるのに間に合わない、って言われてね。だから、パリにいるきみのお姉さんにお願いしようかと思った。かの女は、承諾してくれた」シャロンが言った。
「・・・まあ、スカラが・・・?」ステラは嬉しそうに言った。
「だけど、代父の人選がね・・・。これから、また探してみようと思うんだ」シャロンが言った。「誰か、心当たり、ないかな?」
「・・・そうね、パリには、あまり知り合いがいなくて・・・」
 カロリーナが口をはさんだ。「どうしてもみつからなかったら、弟に声をかけてみましょうか?」
 シャロンはほほえんだ。「セバスティアンは、最近偉くなっちゃったしねえ・・・」
 カロリーナの兄セバスティアン=ロストフスキーは、昨年の秋、ある絵画コンクールで優勝したばかりであった。
「ロストロフスキー画伯では、ちょっとお願いしにくいわね・・・」ステラもそう言ってほほえんだ。
「まあ、画伯だなんて!」カロリーナも笑い出した。
 彼らは、自分たちにふりかかろうとしている悲劇にはまったく気づいていなかった。
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