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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第62章

第1101回

 シャルロットがシルヴィーの死を知ったのは、それから数日後のことだった。約2週間後、ダニエル=スフロ夫人からの手紙が届き、シャルロットはかの女の死を受け入れざるを得ないと観念した。
 シャルロットは、庭でその手紙を受け取った。そのとき、かの女はヴァージニア=アッシュと散歩をしているところだった。6月に入って以来、シャルロットはヴァージニアを庭で見かけることが増えた。しかも、たいていバラの並木道のところで二人は出会った。もし、二人がもっとお互いに興味を持っていたら、二人が出会うのは白いバラの前だと気づいていたかもしれない。しかし、二人ともそれには気づかなかった。自分がなぜ白いバラを見ていたのか、相手に説明したくなかったからかもしれない。
 シャルロットは、<アンダースンズ=ハウス>に来て以来、バルバラ=ヴィエニャフスカと微妙な距離を置くようになった。二人はかつて<半分ずつ>の集まりだった。シャルロットは、歌の勉強をするためにここにやってきたバルバラの練習の邪魔をしたくないと思っていた。バルバラは、歌の練習と英語の勉強のため、自分の時間がほとんどなかった。そこで、シャルロットは、バルバラの練習の時に伴奏するほかは、なるべくかの女と距離を置いた。
 ロリンズ夫人はシャルロットに興味を持っていた。ロリンズ夫人は、レッスンの時に伴奏を担当することにしていたが、曲がオペラのアリアだったりするとシャルロットに伴奏を依頼するようになった。シャルロットは、スコアを見ながら伴奏できるからである。時には、ロリンズ夫人と連弾で伴奏することさえあった。その伴奏形態を、アンダースン夫人の弟子たちは歓迎した。
『まるで、本物のオーケストラの伴奏で歌っているみたい!』かの女たちは口々にそう言い、演奏に熱がこもった。
 そういうわけで、アンダースン夫人の弟子たちは、シャルロットとたちまち仲がよくなった。
「あの子のは、宿泊代以上の働きだわ」ロリンズ夫人はアンダースン夫人にそう言った。「ジョー、かの女に給料を払わなくちゃいけないわ」
 アンダースン夫人は優しくほほえんだ。「シャルが受け取るとは思えないわ」
 そんなわけで、アンダースン夫人とロリンズ夫人は、シャルロットが屋敷内で自由を満喫するのを妨げることは決してしなかったのである。
 シャルロットは、一日中自由時間があっても、退屈することはなかった。かの女は、ピアノの伴奏をするほかは、自分自身のピアノやヴァイオリンの練習、小説を書く時間を確保し、いたる所を散歩した。フィラデルフィアにやってきて約半年の間に、家中の人たち---料理人や庭師を含む全員---のほか、家から半径500メートルの間に住むほとんどの人と顔なじみになってしまっていた。
「・・・なんだか、近頃お食事がおいしくなったと思わない?」アンダースン夫人までそう言うほどだった。かの女は、シャルロットが台所でじゃがいもの皮むきの手伝いをしながら、料理人の腕前を褒めちぎっていることを知らない。しかし、シャルロットがやってきて以来、何かが変わった。少しずつだが、何かいい方向に向いてきている。
 シャルロットは、もともと屋敷にいた4人の弟子たちの中で、最年長のキャスリーン=マンスフィールドと最初に親しくなった。キャスリーンは元々世話好きのタイプの人間で、故郷にいる妹そっくりだと言ってシャルロットの世話を焼きたがった。栗色の髪をしてはしばみ色の目のかの女に、ブロンドの髪に青い目の妹がいるというのはにわかに信じがたいが、シャルロットはキャスリーンがしたいようにさせていた。キャスリーンは、弟子たちのリーダー格で、誰に対しても姉のように接しているというのは、シャルロットにもすぐにわかった。キャスリーンが特に目をかけているのがヴァージニアだということもすぐにわかった。ヴァージニアは、何処か暗い影のある少女だった。かの女が他人に対し、簡単に心を開くタイプでないこともシャルロットにはわかっていた。だからこそ、シャルロットはヴァージニアに興味を持ったのである。
 ヴァージニアの方は、他人に興味を持つ方ではなかった。かの女は孤独を愛していて、誰かと一緒にいるのが気詰まりのように見えた。シャルロットとは何度か話をしたが、世間話をしていたはずなのにいつの間にか論争めいたことになり、お互いに不快な気持ちになることが多かった。にもかかわらず、ヴァージニアはシャルロットを避けようとは思わなかった。最後にはけんか腰で話を終えることが多いのに、どうしてまた話をしたくなるのか、ヴァージニアにはよくわからなかった。
 シャルロットの方も、ヴァージニアが自分を嫌っているわけではないことを知っていたから、かの女を避けようとは思わなかった。道で出会えば一緒に散歩をするし、なるべく無害な話題を考えたりする。にもかかわらず、お天気の話だけでは話は長く続かない。結果として、二人は黙って散歩することを選んだ。一緒に歩くのは、なぜか心地がよかった。
 その手紙を受け取ったのも、二人がこうして散歩しているときだった。
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