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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第6章

第108回

 その晩、ステラと小さな子どもがいる離れから火の手が上がった。
 ド=ルージュヴィル家のパリの屋敷は、庭をはさんでカタカナのコの字型をしていた。庭から見て左側にステラたちの寝室が、右側にシャロンの寝室があった。シャロンはたまたまカーテンを開け、目の前の建物の異常に気づいたのである。
 シャロンが表に飛び出してきたあとで、左側の建物からも何人かの人たちが出てきた。
「・・・ステラは・・・?」シャロンは、建物から出てきた人に訊ねた。
 みな一様に首を振るだけであった。
 シャロンは、建物の中に入ろうとしかけた。何人もの使用人が、あわてて彼を押さえた。
「・・・ステラが中にいるんだ!」シャロンは、彼らを振りきろうとした。
 そのとき、赤毛の青年が、ぐったりしたステラを抱きかかえて建物から出てきた。
 シャロンは、彼らを振りきってステラの元へ行き、かの女を青年の手から受け取った。
「ステラ! しっかりして!」シャロンはかの女を揺り起こした。
 ステラは、薄く目を開けた。
「・・・よかった・・・無事だったんだね・・・」シャロンはステラを抱きしめた。
「何があったの?」ステラはシャロンに訊ねた。
「火事だ。屋敷が燃えている」シャロンが答えた。
 ステラの目に恐怖が浮かんだ。「・・・クリ・クリは・・・?」
 同時にシャロンの腕が震えた。
「子どもはどこ・・・?」ステラは叫んだ。「クリ・クリ!」
 そう言うなり、ステラはシャロンの腕を逃れようとした。
「子どもが、まだ、中にいる!」ステラは半狂乱になった。「クリ・クリーっ!」
「だめだ、戻っちゃだめだ!」シャロンはかの女をしっかり抱きしめた。
「誰か、子どもを!」ステラは泣き叫んだ。「誰か、助けて!」
 シャロンはステラを押さえつけた。
 子どもの泣き声が中から聞こえた。
「クリ・クリ!」ステラはまだ泣き叫んでいた。「お願い、離して。助けに行かなくちゃ!」
 そのとき、さっきの赤毛の青年が中に飛び込んでいった。
「だめだ! もう間に合わない!」シャロンが青年の後ろ姿に向かって叫んだ。
 青年は振り返らなかった。
「やめろ、戻ってこい!」シャロンは叫び続けた。その腕の中でステラは娘の名を呼びながらすすり泣いていた。
 子どもの泣き声は、まだ続いていた。
「・・・だめです、もう間に合いません」消防士がシャロンに言った。
 そのとき、火の勢いが増した。中で、大きな物音がした。なにかが爆発したような音であった。その音が止んだとき、もう子どもの声は聞こえなくなっていた。
「クリ・クリ!」ステラは絶叫し、気を失った。
 もう、娘は戻らない。シャロンも肩を落とした。
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