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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第62章

第1106回

 それから数日後のある日曜日の午後のことだった。
 その日、大部分の生徒たちが帰省し、屋敷にはシャルロットとバルバラのほか、ヴァージニアしか残っていなかった。
 シャルロットは部屋で小説を書いていた。ヴァージニアはいつものように庭に出ていた。そして、バルバラは自分の部屋にいた。
 バルバラは、ホームシックにかかっていた。じっとしていると落ち着かないので、部屋の模様替えをしようと決めた。しかし、バルバラの仕事は、かなり時間がかかっていた。昔を思い出させるようなものを見つけるたび、作業を中断して思い出にふけっていたからである。アルバムを見ては泣き、出発前に父親からもらったペンダントを見ては泣き、母親からの手紙を見ては泣く、といった調子だった。かの女は、本棚の中味を先に整理しようと思いついた。かの女は読書家ではないので、蔵書の数は少ない。フランスを出発するときに2~3冊持ってきただけで、残りはアメリカに来てから「英語の勉強のため」入手したものだ。全部で10冊くらいしかない本を移動するのにはさほど時間はかからなかった。ただ、本棚には、本以外のものがあった。
 バルバラは、ミュラーユリュード時代、フィアンセのミエチスワフ=レショフスキーと一緒に日記をつけていた。二人は、約1週間交代で日記を書いた。最初に使ったノートにちなみ、<水色の日記>と呼ばれていた一連の日記帳のうち、バルバラはミュラーユリュード時代最後の日記を手元に持っていた。その日記帳は、バルバラがサント=ヴェロニック校に復学しなかったため手元に残ったのである。残りのノートはすべてミエチスワフが持っていた。
『将来、一緒に昔のことを思い出そうね』ミエチスワフはそう言っていた。『これは、ぼくたちの思い出だからね』
 バルバラは、ノートを抱きしめた。かの女が思い出すのは、ミエチスワフと最後に会った日のことだ。それは、彼が一人でミュラーユリュードに出発する前日のことだった。ミエチスワフは、今は一緒に戻れないけれど、お互いに将来のためにがんばろうと言った。そして、かの女にこう言った。
『まだ両親に話していないが、ぼくは、このまま戻ってこないつもりだ。フランスの大学で法律を勉強しようと思っているからだ。きみは、2年間で勉強を終えたあと、両親を説得してフランスへおいで。ぼくが卒業するまで、一緒にフランスで勉強しよう。2年だ。2年間だけ我慢して待っていてくれないか?』
『2年たって、もし、わたしがフランスに行くのを反対されたらどうするの?』
『ぼくがみんなを説得する。それでもだめなら、家出しておいで。待ってるから』
 バルバラは涙をこぼした。確かに、かの女は家出同然にフランスに行った。おかげで、ミエチスワフとは行き違いになり、それっきり彼とは会えなくなった。手紙を出しても返事は来なかった。そのうちに、手紙さえ出さなくなった。世界は、二人の想像以上の急激な変化を遂げ、バルバラは、フランスどころか海を渡ってアメリカにまで来てしまった。ミエチスワフは、戦争に行っただろうか? そして、かつてのクラスメートと敵味方に分かれて戦っているのだろうか?
 バルバラはノートを開いた。ミエチスワフのやや角張った筆跡が目に入った。それを見ただけで懐かしさが倍加し、かの女はノートが手から落ちたのにも気がつかないで泣きじゃくっていた。
 やがて、バルバラは床に落ちたノートを拾った。そのノートの間に挟まっていた紙も拾った。そして、バルバラはその紙をひろげた。見覚えのない筆跡で書かれたその紙は、手紙の断片のようだった。その筆跡は、どう見ても男性のものだったので、バルバラは何となくほっとした。まさか、ミエチスワフに、自分の知らない女友達がいたとは考えられないが、もしそんなことがあったら、嫉妬で狂っていたかもしれない。いや、もし知っている女性であっても、内緒で手紙のやりとりをしていたとしたら、許せない。その友人が、たとえシャルロットやヴィルヘルミーネであったとしても・・・。
 バルバラは、親友たちの顔を想像した。筆まめなシャルロットなら、ミエチスワフと文通していても驚くようなことではないが、さすがのシャルロットも、ミエチスワフがどこで何をしているのか知らないはずだ。ミエチスワフが誰かと文通するのなら、婚約者の自分を差し置いてシャルロットに手紙を書くとは思えない。ヴィルヘルミーネとは音信不通のままだ。シャルロットは、ヴィルヘルミーネにあてた最後の手紙に、戦争が終わったらサント=ヴェロニック校あてに手紙を書いて欲しいと書いていた。院長の孫セシール=ド=ベルジュラークなら、シャルロットが帰るまで手紙を預かっていてくれるはずだし、いくらヴィルヘルミーネでもサント=ヴェロニック校の住所を忘れるとは思われない。
 ああ、どうして戦争が終わらないのだろう?
 バルバラはため息をつき、手紙を読み始めた。
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