シャルロットは、バルバラの部屋を訪ねた。サント=ヴェロニック校時代から、シャルロットはよくそうやってバルバラのところに行き、悩みを聞いてもらったものだった。今、かの女が相談できる人間は、バルバラだけになってしまっていた。かの女のことを一番よく知る人間がバルバラだったのだ。少なくても、今は。
ドアをノックしたが、返事はなかった。かの女は、寮にいたときと同じように中で待つことにした。二人は、お互いにそれを許す仲でもあった。バルバラも、よく部屋でシャルロットが戻って来るのを待っていたものだ。
シャルロットは、バルバラの部屋に来るのは久しぶりだと思った。アメリカに来て以来、シャルロットはバルバラに遠慮し、あまりかの女の部屋には来なかった。逆に、バルバラの方がシャルロットの部屋に来た。バルバラは、英語の勉強のため、ほかの言葉をなるべく使わないようにしていた。シャルロットがバルバラの部屋に行くときは、二人は英語で話をした。しかし、バルバラがシャルロットの部屋に来るときだけは例外で、バルバラはポーランド語で会話をするためにやってくるようなものだった。そして、部屋に来る前とは違い、生き生きした表情で部屋から出て行くのである。
バルバラの部屋は、少し散らかり気味であった。シャルロットは、その部屋の様子を見て、心が沈んでいく感じを味わっていた。
何ということだろう! 知らなかった・・・バーシャが悩んでいたとは!
シャルロットは部屋の様子を一目見ただけで、バルバラの悩みが<ホームシック>であることを見抜いた。かの女は、シャルロットにさえそれを打ち明けなかったのだ。気がついていれば、もっと話し相手になったのに! シャルロットは、バルバラの勉強のためとはいえ、かの女と距離を置きすぎたことを反省した。
シャルロットは、暖炉の上にあった写真を見つめた。バルバラとミエチスワフの写真。バックに映っているのは、グディニアの公園だろう。二人は私服だったし、ミュラーユリュードで撮った写真には見えなかった。もっとも、サント=ヴェロニック校の在学生なら、こうやって写真を撮ることはあり得ない。たとえ、撮ったとしても、二人が並んで撮るのが関の山だ。しかし、この写真の二人は、もっと親密な関係だ。恋人同士でなければ、こんなに幸せそうな表情を浮かべることはないだろう。
シャルロットは、その写真を見ているうちに、涙がこぼれるのを感じた。考えてみれば、コルネリウスと二人で写真を撮ったことは一度もない。コルネリウスの写真も、1年前に撮った一枚しか持っていない。しかも、そのコルネリウスに、たった今、別れを告げられたのだ・・・。
シャルロットは涙を拭いた。これは、バルバラに相談する悩みではないかもしれない。バルバラも不安なのだ。戦争が始まって以来、ミエチスワフの生死さえわからないのだ。
シャルロットは部屋を出ようとした。そのとき、暖炉の上に手紙が一通あることに気づいた。しかも、自分宛の手紙だ。シャルロットはその筆跡を知っている。それは、コルネリウス=ド=ヴェルクルーズの字だ。なぜ、バルバラがこれを持っているのだ?
シャルロットは手を伸ばし、手紙を取った。
そのとき、バルバラが部屋に入ってきた。かの女は、暖炉のそばにシャルロットが立っているのを見て目を丸くした。
「ブローニャ、その手紙なんだけど・・・」バルバラは、ポーランド語で言いかけた。そして、シャルロットの表情を見てさらに驚いた。シャルロットは、絶望している?
バルバラを見るシャルロットの表情は、悲しみ、絶望・・・そして、怒りへと変わった。
「ごめんなさい、あなたに渡すのを忘れていたの」バルバラが続けた。
「・・・いつから?」シャルロットの声は低かった。
バルバラは、これほど怒っているシャルロットを見るのは初めてだった。バルバラは、一瞬怯んだ。
「いつからこれを持っているのかと聞いているのよ」シャルロットは、怒りを込め、ポーランド語でうなるような口調でそう訊ねた。
「なぜ、そんなに怒るの? 忘れていただけじゃないの。ごめんなさい、って謝ったでしょう?」バルバラは静かに訊ねた。
「コルネリウスが・・・」シャルロットの声はふるえた。「彼が、婚約を解消すると言ってきたの。彼は、戦場で死ぬつもりなの」
ドアをノックしたが、返事はなかった。かの女は、寮にいたときと同じように中で待つことにした。二人は、お互いにそれを許す仲でもあった。バルバラも、よく部屋でシャルロットが戻って来るのを待っていたものだ。
シャルロットは、バルバラの部屋に来るのは久しぶりだと思った。アメリカに来て以来、シャルロットはバルバラに遠慮し、あまりかの女の部屋には来なかった。逆に、バルバラの方がシャルロットの部屋に来た。バルバラは、英語の勉強のため、ほかの言葉をなるべく使わないようにしていた。シャルロットがバルバラの部屋に行くときは、二人は英語で話をした。しかし、バルバラがシャルロットの部屋に来るときだけは例外で、バルバラはポーランド語で会話をするためにやってくるようなものだった。そして、部屋に来る前とは違い、生き生きした表情で部屋から出て行くのである。
バルバラの部屋は、少し散らかり気味であった。シャルロットは、その部屋の様子を見て、心が沈んでいく感じを味わっていた。
何ということだろう! 知らなかった・・・バーシャが悩んでいたとは!
シャルロットは部屋の様子を一目見ただけで、バルバラの悩みが<ホームシック>であることを見抜いた。かの女は、シャルロットにさえそれを打ち明けなかったのだ。気がついていれば、もっと話し相手になったのに! シャルロットは、バルバラの勉強のためとはいえ、かの女と距離を置きすぎたことを反省した。
シャルロットは、暖炉の上にあった写真を見つめた。バルバラとミエチスワフの写真。バックに映っているのは、グディニアの公園だろう。二人は私服だったし、ミュラーユリュードで撮った写真には見えなかった。もっとも、サント=ヴェロニック校の在学生なら、こうやって写真を撮ることはあり得ない。たとえ、撮ったとしても、二人が並んで撮るのが関の山だ。しかし、この写真の二人は、もっと親密な関係だ。恋人同士でなければ、こんなに幸せそうな表情を浮かべることはないだろう。
シャルロットは、その写真を見ているうちに、涙がこぼれるのを感じた。考えてみれば、コルネリウスと二人で写真を撮ったことは一度もない。コルネリウスの写真も、1年前に撮った一枚しか持っていない。しかも、そのコルネリウスに、たった今、別れを告げられたのだ・・・。
シャルロットは涙を拭いた。これは、バルバラに相談する悩みではないかもしれない。バルバラも不安なのだ。戦争が始まって以来、ミエチスワフの生死さえわからないのだ。
シャルロットは部屋を出ようとした。そのとき、暖炉の上に手紙が一通あることに気づいた。しかも、自分宛の手紙だ。シャルロットはその筆跡を知っている。それは、コルネリウス=ド=ヴェルクルーズの字だ。なぜ、バルバラがこれを持っているのだ?
シャルロットは手を伸ばし、手紙を取った。
そのとき、バルバラが部屋に入ってきた。かの女は、暖炉のそばにシャルロットが立っているのを見て目を丸くした。
「ブローニャ、その手紙なんだけど・・・」バルバラは、ポーランド語で言いかけた。そして、シャルロットの表情を見てさらに驚いた。シャルロットは、絶望している?
バルバラを見るシャルロットの表情は、悲しみ、絶望・・・そして、怒りへと変わった。
「ごめんなさい、あなたに渡すのを忘れていたの」バルバラが続けた。
「・・・いつから?」シャルロットの声は低かった。
バルバラは、これほど怒っているシャルロットを見るのは初めてだった。バルバラは、一瞬怯んだ。
「いつからこれを持っているのかと聞いているのよ」シャルロットは、怒りを込め、ポーランド語でうなるような口調でそう訊ねた。
「なぜ、そんなに怒るの? 忘れていただけじゃないの。ごめんなさい、って謝ったでしょう?」バルバラは静かに訊ねた。
「コルネリウスが・・・」シャルロットの声はふるえた。「彼が、婚約を解消すると言ってきたの。彼は、戦場で死ぬつもりなの」
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