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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第62章

第1112回

 バルバラははっと息をのんだ。「わたしのせいだと言うの?」
 シャルロットはうなずいた。「あなたが100パーセント悪いわけじゃないわ。だけど、この手紙を受け取ってさえいたら、これほどひどくなる前になんとかできたかもしれない」
 バルバラはかっとした。「確かに、わたしは、これをあなたに渡すのを忘れたわ。でも、何もかも人のせいにしないでちょうだい!」
 シャルロットは皮肉めいた口調で言った。「あなたは、手紙を渡すのを忘れただけですものね」
 しかし、バルバラも精神的に不安定だった。かの女は、手紙を渡すのを忘れただけで、ここまでシャルロットに恨まれるとは思わなかった。いつものシャルロットなら、笑って許してくれるくらいの単純なミスに過ぎない。
「ドンニィは、死ぬ気なのよ!」シャルロットは、バルバラをにらみつけた。「もし、彼が死んだら、あなたのせいよ!」
 シャルロットは、自分の口から飛び出した言葉に、自分でも驚いていた。誰かを意識的に傷つけようとしたのは、これが初めてかもしれない。
「そして、そのときは、わたしも死ぬわ」シャルロットはそう続けた。
「わたしのせいじゃない!」バルバラは、大声を上げた。「出て行って、シャル! あなたの顔なんか見たくない!」
 バルバラがシャルロットを<シャル>と呼んだのは、これが初めてだった。バルバラだけは、シャルロットを昔からの愛称で呼んだ。そして、シャルロットもそれを当たり前だと思っていた。
 この瞬間、二人はもう友達同士ではなくなった。
 ドアがノックされる音がして、アンダースン夫人とヴァージニアが入ってきたとき、二人はにらみ合っていた。さすがのアンダースン夫人でさえ、シャルロットが悪魔のような表情を見せていることに驚いた。
「出て行って!」バルバラは英語で繰り返した。
 シャルロットはバルバラをにらみつけたままその場を動かなかった。
「どういうことなの?」アンダースン夫人は二人に訊ねた。
「この人は」バルバラは、あえてその表現を使った。「わたしの部屋に勝手に入ってきて、暖炉の上に置いていた手紙を盗りました」
 アンダースン夫人とヴァージニアはぎょっとしたようにシャルロットの方に目をやった。
 シャルロットは、封筒を握りしめていた。そして、何も言わなかった。ただ、抗議するような表情でバルバラをにらみつけているだけだった。
「本当なの、シャル?」アンダースン夫人が訊ねた。「なぜ、そんなことをしたの?」
 シャルロットはその問いに答えなかった。ただ、バルバラをにらみつけているだけだった。
「手紙を返しなさい。そして、バビィに謝りなさい」アンダースン夫人はきつい調子で言った。
 シャルロットは一言も口をきかなかった。
「シャルロット=ド=サン=メラン」アンダースン夫人は毅然とした調子で言った。「謝りなさい。それができないのなら、わたくしの前から今すぐ消えてちょうだい」
 シャルロットは、アンダースン夫人に視線を移した。《わたしを信じられないんですね?》かの女の目はそういっていた。
 アンダースン夫人の方が目をそらした。
 シャルロットは、手紙を持ったまま部屋から出て行った。一言の謝罪も、弁解の言葉もなかった。
 アンダースン夫人もそれを見て部屋から出て行った。
 ヴァージニアは、バルバラを見た。バルバラは、たった今繰り広げられた光景に愕然としていた。
「悪いのは、あなたね?」ヴァージニアが言った。「シャルが、理由もなくあんなに怒るはずはない。しかも、親友のあなたに対して」
 バルバラは黙って下を向いた。
「本当のことを話して、バビィ。シャルは追い出されてしまうわ!」ヴァージニアが言った。
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