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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第62章

第1113回

 その30分後、ヴァージニアはシャルロットの部屋を訪ねた。ノックをしても返事がないので、ヴァージニアは戸を開けた。
 不自然なほど片づいたその部屋には、見慣れた私物が一切なかった。シャルロットは、もともと私物は少ない方だが、それが全くないのはおかしい。
 そして、机の上に、メモが残されていた。


今まで、ありがとうございました。C


 ヴァージニアは、シャルロットが本気で出て行ったことを知り、愕然とした。バルバラの話では、シャルロットには罪はない。かの女が黙っていたのは、『決していいわけをしてはいけない』としつけられたからであり、自分の罪を認めたからではなかった。
 ヴァージニアは、半分泣きながらアンダースン夫人の私室を訪れた。
 アンダースン夫人はロリンズ夫人と一緒に紅茶を飲んでいた。二人とも、妙に静まりかえっていた。
 ヴァージニアは、二人に、バルバラから聞いた話を告げ、自分が見たことを話した。
「出て行ったんですって?」ロリンズ夫人は驚いた。
「ええ、先生が出て行けとおっしゃったので」ヴァージニアはそう言った。
 アンダースン夫人はあぜんとした。「わたくしは、出て行けとは言いませんでした。少し頭を冷やしてきなさいと言ったつもりだったのに・・・」
「ちゃんと指示しなかったのが悪いわね、ジョー」ロリンズ夫人が言った。
「冗談を言っている場合ではないわ」アンダースン夫人は立ちあがった。「シャルロットを探します。遠くへは行っていないと思うわ」
 ヴァージニアはシャルロットの置き手紙を見せた。「いいえ、遠くへ行ったのだと思います、マダム=アンダースン。部屋には、かの女の私物は一切ありませんでしたから」
「わたしたちの天使が行ってしまう」アンダースン夫人は歩き出していた。「何があっても連れ戻さなければ」
 それから10分しないうちに、屋敷の全員が招集されていた。使用人たちのほとんどは泣いていた。彼らは、シャルロットに別れを告げられていた。知らなかったのは、先生と弟子たちだけだったのだ。
 アンダースン夫人は、シャルロットが本気だったということにあらためて驚かされていた。
「お願いです、わたしにも探させて下さい」料理人が言った。「お嬢さまがいないと、わたしは、これからどうしていいかわかりません。かの女が、毎日メニューを決めて下さいました。料理の下ごしらえを手伝いながら、『マーサ、あなたの作るスープは最高だわ』って・・・あの言葉が聞けなくなったら、わたしは・・・」
 料理人が声をつまらせたので、涙ぐんで隣に立っていたメイドがかの女の背中をさすりながら言った。
「そうですとも。シャーロットさまが、『今日も廊下がぴかぴかね』と言って下さるからこそ、自分の仕事が楽しくなると言うものです」
 ほかの使用人たちも、泣きながら同意の意を示した。そして、自分たちも捜索に加わりたいと口々に言った。
 アンダースン夫人とロリンズ夫人は、自分たちが知らないところで、こんなことになっていたことに驚いていた。まさか、シャルロットが、紅茶と一緒に出てくるスコーンに至るまで気を配っていたとは。それは、元来アンダースン夫人の仕事だった。しかし、しばらく前から自分好みのものが準備されているため、かの女は家の中のことを考えることなく、仕事のことを考えられるようになったのである。
 アンダースン夫人は、シャルロットを探しながら、自分の心に大きな穴があいてしまったことに気づいていた。
 シャルロットの足取りは、駅を最後に完全に途絶えた。かの女が乗った列車がどれなのかを突き止めることはできなかった。目撃者がいなかったからである。
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