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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第6章

第109回

 その日、フレデリック=ダルベールはパリのあるコンサート=ホールの舞台の上にいた。彼の伴奏をしていたのは妹のソランジュ=ド=ヴェルモンであった。
 演奏会が終了した後で、フレデリックは楽屋で友人と会話していた。
「・・・ところで、ド=ルージュヴィル公爵夫人が母親になったことを知っているかい?」友人が訊ねた。
 フレデリックは首を横に振った。あの日以来、彼はかの女に会ったことはない。
「女の子だったんだって。ザレスキー家のブルーの目をした、かわいい子だそうだ」
 ザレスキー家の目・・・。フレデリックは思わず目を閉じた。初めてステラに会ったとき以来、あの目を忘れたことはない。
「・・・あんなにステラさんに夢中だったのに、よく、かの女と別れられたね」友人が言った。
「・・・いや、別れられたんじゃない。別れさせられたんだ」フレデリックは、初めて告白した。
「別れさせられた?」友人はびっくりした。「・・・なにがあったの・・・?」
 フレデリックは、首を振った。彼は、簡単に話をまとめた。
「かの女のご主人が気がついたのさ。で、追い出されたってわけ」
 友人はさらにびっくりした。
 フレデリックは遠い目をした。彼は、まだステラをあきらめたわけではなかった。
「・・・かの女の家からは追い出された。が、ぼくの心の中からかの女を追い出すことは、誰にもできない。たとえ、かの女のご主人にでも、ね」
 友人はうなずいた。
「ぼくは、どんなことがあっても、かの女をあきらめることはできないんだよ・・・」フレデリックが言った。
 ソランジュは、その会話を耳にはさんだ。
 かの女は、兄が誰かを愛していることを知っていた。もう2年以上も思いつめたような目をしていたことに気づいていた。しかし、彼がどんな女性とどんな恋をしているかは知らなかったのである。
 かの女は、その話を聞き、その女性の夫に憎しみを感じたのであった。
 フレデリックは、ソランジュが何か思いつめているのに気がついた。彼は、かの女と別れたふりをし、かの女の跡をつけたのである。
 ソランジュは、まっすぐにド=ルージュヴィル邸に向かって歩いていた。
 門にはだれもいなかった。かの女は、そこを通過すると、向かって左側の建物の中に入っていった。
 フレデリックはさらにかの女の追跡を続けた。
 しばらくすると、建物から火の手が上がった。
 フレデリックは、あとさき考えずに燃えている屋敷の中に入った。
 たまたま、ドアの一つが開いた。彼はそこに入ってびっくりした。
 ステラ=ド=ルージュヴィルは、その部屋にあるベッドの中で眠っていたのである。
 彼は、何も考えずにかの女を抱きかかえ、煙が出ていない方へと走った。
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