FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第6章

第110回

 気がついたステラが子どもの名前を叫んだとき、フレデリックはとっさに屋敷の中に戻っていった。ステラのために、子どもを助けようと考えたのである。
 子どもがどこにいるかわからなかったが、子どもの泣き声が続いていた。彼は、泣き声だけを頼りに、中に進んでいった。
 煙の中で、彼は一人の女性とぶつかった。
「・・・リック、どうしてこんなところに?」ソランジュ=ド=ヴェルモンは、兄を見てびっくりして叫んだ。
「きみこそ、なぜ?」フレデリックは妹に言った。
「あっちは、まだ安全だわ。早く逃げて」ソランジュは、煙と反対側を指さしながら言った。
「でも、子どもが・・・」フレデリックが言った。
 そのとき、大きな音がした。ついで、爆風が二人の方へ吹いてきた。フレデリックは、とっさに妹をかばった。爆風に続いて何かが飛んできて、フレデリックの背中に命中した。
「リック!」ソランジュが叫んだ。
「・・・早く、逃げて・・・」フレデリックは痛みをこらえながら言った。
「大丈夫? 起きられる・・・?」ソランジュが訊ねた。
 フレデリックは首を横に振った。「ぼくは、もうだめだ。きみだけでも、逃げてくれ」
「ばかなこと、言わないで。起きて、リック!」
 そのとき、子どもが大きな声を上げた。
 フレデリックは妹を見つめて言った。「ぼくは助からない・・・。ソランジュ、お願いだ。あの子どもを助けてくれ」
「子どもですって・・・?」ソランジュは顔をしかめた。「なぜ、あんな男の子どもを・・・?」
 フレデリックは、妹を見つめた。かの女には、子どもを助ける意志はなさそうであった。自分はまもなく死ぬ。ステラがあんなに愛した子どもを、最後に助けてあげたかった・・・。
 いや、ステラの子どもには生きてもらいたい・・・。どうすれば・・・?
 フレデリックは、とっさに嘘をついた。「あれは、ぼくの子どもなんだ・・・」
 ソランジュはあぜんとした。「まさか・・・?」
「ぼくと、かの女の子どもだ。あの男は、それを知って、ぼくを追い出したんだ・・・」フレデリックは苦しそうにそう言うと、大きく息を吸った。「頼む、ソランジュ・・・子どもを・・・」
 ソランジュは兄を見つめた。
「・・・ステラ・・・」そう言うなり、彼は息を引き取った。
 ソランジュは、また爆風が自分の方に来るのを感じた。
 子どもだけでも助けなければ! かの女はそう思った。
 かの女は、泣き声を頼りに部屋を探し当てた。
 女の子は、かの女を見るなり泣きやんだ。そして、嬉しそうに握りしめたちいさな拳を振った。
 ソランジュは、ベビーベッドから女の子を抱き上げた。そして、大切そうに抱きかかえ、煙が来ない方角へと走ったのであった。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ