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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第6章

第111回

 シャロンは、火の中に飛び込んでいった後ろ姿に見覚えがあるような気がしていた。
 彼は、記憶をたどり、ある考えに至った。
 あの男じゃないか? でも、どうして・・・?
 シャロンは、頭の中が混乱しかけてきたので、ゆっくりと考えをまとめようと思った。
 あの赤毛の男---名前は、確かフレデリック=ダルベールといった---リールで、ステラに言い寄っていた男だ。ヴァイオリニストだった。
 あの日も、彼はステラとアンサンブルをしていた。
 彼の頭の中に、あの日聞いたベートーヴェンのクロイツェル=ソナタが鳴り響いた。彼は、その演奏を聞き、漠然とした不安を抱いて妻の部屋をノックもせずにあけた。そして・・・そのとき、彼は左手にヴァイオリンを持ち、右手でステラの手を取り、何か必死に訴えていた。その内容が彼の耳に飛び込んできたとき、彼は生まれて初めて人に殺意を感じるということがどういうことかわかった・・・。
『あなたは、ここにいても幸せにはなれない。ぼくなら、あなたにほほえみを取り戻すことができる・・・あなたは、自分が幸せだと思いこもうとしているだけだ。彼はあなたを愛していない。だけど、ぼくはあなたが好きだ』あの男は、確かにそう言った。
 そして、ステラは悲しそうな顔をしてうつむいていた。
『目を覚ましなさい、ステラ。あなたは、このままでは、幸せにはなれない。お願いです、ぼくと一緒にここを出ましょう・・・』
『・・・わたしは、彼を愛しています。おわかりでしょう、リック?』ステラはそう返事した。
『彼は、あなたをこんなに悲しませている・・・彼は、あなたにふさわしい男性じゃない』
 シャロンは、フレデリックに飛びかかって首を絞めたいという思いをやっとのことで抑えた。彼は、ゆっくり心の中で3つ数を数え、理性的な人間を演じようとした。
『・・・あなたこそ、そうではありませんか? こんなところで、何をしているんです?・・・妻から離れなさい。そして、いるべきじゃないところから出て行きなさい・・・』
 フレデリックは、真剣にシャロンと向き合った。彼は、まったく本気でステラを愛していた。
『・・・かの女を不幸にしたら、ぼくはあなたを許しません。そのときは、ぼくがかの女を奪います』フレデリックは、最後にそう言って部屋を出て行った。
 それが最後のはずだった・・・。少なくても、リールで彼を見たことはない。その後、彼はパリに戻っていったのだという噂を聞いた。
 パリ・・・?
 シャロンは、また何かひっかかりを感じ始めていた。
 そういえば、パリに行きたいと言い出したのはステラの方だった。そこに母と姉が住んでいるから・・・知っている人の近くで出産したいから・・・ステラがそう希望したので、わざわざ身重の体でパリまでやってきたのである。
 でも、本当だったのだろうか?
 かの女がパリに来たかったのは、そこにいる誰かに会いたかったからではないのか・・・?
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