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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第65章

第1160回

 リディアとリチャードが結婚したとき、ヴィンツェンティの夜間大学でのカリキュラムは、あと一年分残されていた。それまで、ヴィンツェンティとリディアは、二人の給料で生活していた。しかし、リディアの協力が期待できなくなり、ヴィンツェンティは勉強を続ける資金を得るため、転職を考えた。彼は、シュトックマン商会という小さな会社で働き始めた。その会社の社長アンソニー=シュトックマンは、リチャード=ハンプトンの友人アンソニー=シュトックマンの父親だった。リチャードは、ヴィンツェンティに資金援助することはできなかったので、就職を紹介したのである。
 シュトックマン商会は、チャールズ=シュトックマンというドイツ系のアメリカ人が1873年にシカゴで始めた会社であった。チャールズには、父親譲りの商才がある二人の息子がいた。シカゴの会社ができてから2年後、チャールズは下の息子ジョンにシカゴの会社を任せ、ニューヨークにも会社を作った。その会社の経営がうまく行き始めた頃チャールズが急死し、長男のアンソニーがあとを継いだ。アンソニーとジョンは仲のいい兄弟で、二つの会社は若い社長たちが経営していたのにもかかわらず、規模が拡大していった。ヴィンツェンティがニューヨークの会社に就職した頃は、会社そのものは少人数のこぢんまりとしたものであったが、経営は安定し、会社拡大の傾向が続いていた。
 彼が就職して一年後、つまり彼が大学を卒業する直前、アンソニー=シュトックマン社長が急死した。あとを継いだ息子の方のアンソニーは、ヴィンツェンティの才能を高く評価していた。アンソニーは、夜間大学を卒業するヴィンツェンティに会社に残るように説得し、社内ナンバースリーの地位を提示した。ヴィンツェンティは卒業と同時にその地位についた。
 ところで、シュトックマン商会には、ヴィンツェンティの才能を高く評価していた人物がもう一人いた。シカゴのシュトックマン商会の社長、ジョン=シュトックマンだった。ジョンは、兄のアンソニーよりも先にヴィンツェンティの才能を見抜き、チャンスがあったらシカゴ支社に引き抜こうと考えていた。もし、アンソニーがあと半年長生きしていたら、ジョンにもチャンスがあったに違いない。というのは、死んだアンソニーは、弟や息子ほどにはヴィンツェンティを高く評価していなかったからだ。しかし、息子の方のアンソニーは、自分が社長になったとたん、ヴィンツェンティに大きな仕事を与え、自分の右腕のように大切にしている。今はナンバースリーだが、いずれは副社長に起用しようとしているのは間違いなかった。自分にはもうチャンスはないかも知れない・・・。それでも、ジョンは、ヴィンツェンティを諦めることができずにいた。
 さすがのアンソニーも、ジョンの動きを察した。アンソニーは、すでに親友の間柄になっていたヴィンツェンティに、ジョンが引き抜こうとしているようだと話した。ヴィンツェンティは笑いながら、シカゴになんて行く気はない、と告げた。その間にも、ジョンはヴィンツェンティ引き抜きのため、本人に何度も<誘惑>を繰り返し続けていた。
 やがて、ジョンは、ヴィンツェンティを引き抜くためには、ヴィンツェンティ本人にではなく、アンソニーに<おいしい餌>を提供しなければならないと考えるようになった。つまり、アンソニーがヴィンツェンティを喜んで手放すような方法を考えなければならないということだ。ジョンには、とっておきの切り札があった。彼には、ジョゼフィンという一人娘がいた。彼は、アンソニーに、自分の娘(すなわち、アンソニーのいとこ)の配偶者にヴィンツェンティを考えているのだが・・・と提案したのである。自分の死後、ヴィンツェンティがシカゴ支社の社長になれば、二人は親友ではなく義理のいとことして、今以上に会社の発展に貢献できるのではないだろうか、と。自分の提案は、シュトックマン商会の将来にとって、ベストな選択だと思わないか、と持ちかけたのである。それを聞くと、アンソニーは、その提案に即座に賛成の意を表明した。
 しかし、その考えを二人から聞かされたヴィンツェンティは、結論を出すのを保留しようとした。ヴィンツェンティがその結婚を嫌がっているように見える、とアンソニーは直感した。その理由を彼なりにいろいろ推測してみたが、アンソニーには思い当たることはなかった。
 一方、ジョンの方は、ヴィンツェンティのはっきりしない態度を、単なる時間稼ぎと受け取った。つまり、すぐに返事をすると、社長の椅子を前から狙っていたように見えるので、結論を先送りすることで時間を稼ごうとしているに違いない、と推測したのである。
 しかし、ヴィンツェンティはいつまでも返事を引き延ばした。ジョンは、彼の煮え切らない態度に不信感を持つに至った。これは、時間稼ぎではない。彼は、この結婚を拒否する口実を考えている。しかし、どうしてだ?
 ジョンは、ヴィンツェンティの身辺を調査してみることにした。やがて彼の元に届いた報告書には、彼にとって意外なことが書かれていた。
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