FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第65章

第1163回

 ジョゼフィンと結婚し、シカゴに移ったヴィンツェンティは、ヴィンセント=ポール=ストックマン=スクロヴァチェフスキーを名乗るようになった。彼はジョンの会社の副社長となった。ジョンは、彼を、将来の社長として教育し始めた。ジョゼフィンはヴィンツェンティを愛し、二人の生活もうまく行きかけていた。しかし、この生活は長くは続かなかった。ジョゼフィンが風邪をこじらせて急死してしまったのである。
 残された人々は、一様にショックを受けた。しかし、このできごとに過剰反応した人間がいた。父親のジョンである。彼は、すでにヴィンツェンティを息子だと思っていた。自分のあとを継がせる人間として、ヴィンツェンティ以外の人間を考えたことはない。しかし、ヴィンツェンティは野心家だった。彼は、ヴィンツェンティが自分の後釜を狙っていると考えたことは一度もない。事実、ヴィンツェンティはそういう指向の持ち主ではなかった。ヴィンツェンティは、いずれは自分の会社を持ち、独立していく人間だということをジョンは感じ取っていた。だからこそ、彼はヴィンツェンティを自分の娘と結婚させ、出て行かないように縛りつけたのだ。娘を失った今、彼にはもう切り札はなかった。ヴィンツェンティは、いずれはシカゴを出て行くだろう。彼には、ニューヨークの方がふさわしい。こんなちっぽけな会社より、もっと大きな会社を作ることができる人間だ。
 そう思ったとき、ジョンは自分の娘を失うよりももっと寂しさを感じた。ヴィンツェンティには、シュトックマン商会に残ってもらいたい。社長として、もっと会社を大きくして欲しい。彼になら、それが可能だ。しかし、このままでは、彼は出て行くだろう。自分の会社を持つために・・・。
 ジョゼフィンを失ってから半年後、ジョンはヴィンツェンティを自分の部屋に呼んだ。そして、彼は自分の夢を語ったのである。シュトックマン商会を大きな会社にすること。その会社の社長として、ヴィンツェンティにここにいてもらいたいこと。ヴィンツェンティを正式に養子にしたいこと・・・。
 そこまで話を聞くと、ヴィンツェンティはびっくりした。自分がここを出て行きたいと、どうしてこの人にはわかったのだろうか?
 ジョンはヴィンツェンティの前で土下座した。彼にここに残ってもらうためになら、何でもする。欲しいというのなら、会社だけではなく自分の命も取って構わない。メアリー=アン=ビーチと結婚するための仲介役を果たす覚悟だ・・・。
 ヴィンツェンティは青ざめた。
『きみがかの女のことを愛していたことを知っていて、無理に娘と結婚させたことを、心からお詫びする』ジョンは、床に頭をすりつけるくらい頭を下げ続けた。『今度は、きみのために、かの女を説得してみせる。だから、ここに残って欲しい』
 ヴィンツェンティはかすれた声で言った。『・・・あなたは、ご自分の娘さんに、ほかの女性を愛している男を・・・?』
 ジョンは泣きながらうなずいた。
『・・・信じられない・・・』ヴィンツェンティはつぶやいた。
『わたしは、目的のためになら、何でもする男だ』ジョンが言った。『もし、かの女を説得できたら、ここに残ると約束して欲しい』
 ヴィンツェンティは小さな声で言った。『わたしは、あなたが信じられない』
『わたしは、きみを自分の息子にするためなら、何でもする。約束して欲しい。もし、かの女をここに連れてきたら、ずっとここに残ると』
 ヴィンツェンティは小さくうなずいた。『・・・わかりました』
 ヴィンツェンティにしてみれば、《やれるものならやってみなさい》くらいの気持ちだった。しかし、ジョン=シュトックマンの執念は、ヴィンツェンティの想像を超えていた。
 ジョンは、ビーチ夫妻に接触を図った。まず、彼らを説得するのが先だった。
 ジョンが予測していた通り、彼らはヴィンツェンティに悪意を持っていた。はじめから、彼らは彼を娘の結婚相手としてふさわしくないと思っていた。まず、彼が貧乏だったから。彼が彼らに近づいたのは、彼らの財産が目的だと思った。彼がシカゴの大金持ちの娘と結婚したと聞き、彼らは自分たちの推測が正しかったと確信を持ったのである。彼が愛していたのは、彼らの財産だったのだ。所詮、彼はその程度の人間だった、と彼らは思った。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ