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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第65章

★第1170回

***************閲覧注意! 暴力的シーンがあります。*************** 

自己責任の上ご覧ください。
(18歳未満の方、および暴力シーンが苦手な方は閲覧をご遠慮ください。)

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 エティエネットは、被告席に座っていたアレクサンドリーヌの前に勢いよく進み出た。そうしながら、エティエネットは頭にさしていた髪飾りを左手でひき抜いた。かの女のブロンドの髪がぱらぱらと肩に落ちた。かの女は、「人殺し!」と叫び、その髪飾りをアレクサンドリーヌの左胸に突き刺した。それは、ほんの2~3秒間のできごとで、誰一人止める時間はなかった。エティエネットは、はじめからこの瞬間を狙っていた。かの女は、この日のために尖った髪飾りを準備していた。いくら厳重な警備が行われようと、髪飾りが凶器になるとは誰一人想像しないだろうと思っていたのである。あとは、アレクサンドリーヌに効率よく近づくチャンスを待つだけだった。
 アレクサンドリーヌは、エティエネットが自分に何をしたのか、一瞬置いて理解した。
 かの女は、鋭い痛みを感じ、自分の胸元を見た。髪飾りがそこに刺さっていた。服が真っ赤に染まっていた。
「わたしは、誰も殺していないわ」アレクサンドリーヌは、相手のすみれ色の目をまっすぐに見つめようとした。しかし、意識が遠くなっていきそうな感覚がしてくる。目を開けているのがやっとだ。かの女は、気を失うのではないと、急に理解したようだった。
「・・・エティエネット、わたしは、あなたを許します・・・」
 そう言うと、アレクサンドリーヌは目を閉じた。そして目の前のテーブルに上半身をかたむけるようにがくっと崩れ落ちた。
 勝ち誇ったような表情をしていたエティエネットは、その光景を見て、よろよろっと後ずさった。かの女の足がその場に固まったように動けなくなり、そのまましりもちをつくようにその場にくずおれた。
 エティエネットは、アレクサンドリーヌから目をそらすことはできなかった。アレクサンドリーヌは、エティエネットがこれまで見た誰よりも優しいほほえみを浮かべていた。その表情を見つめているうちに、エティエネットは、なぜともなく急に理解した。
 アレクサンドリーヌは、実の姉を殺した犯人ではない! 実の姉を殺した殺人犯が、これほど穏やかな死に顔を見せるだろうか・・・? 間違いない、この女性は無実だったのだ!
「・・・なんてこと!」エティエネットは一声叫ぶと、両手を顔に埋めた。
 その場の誰もが、目の前で起こったことを把握するのに30秒以上の時間を必要とした。
 ファルロー弁護士は、「マ=メール?」と叫び、アレクサンドリーヌに駆け寄った。
 その場の魔法が解けた。エティエネットはその場で取り押さえられた。その場は混乱し、「人殺し!」の罵声が飛び交った。その間、ファルローは涙を流しながらアレクサンドリーヌを抱きしめていた。
「やめて下さい!」スティーヴンは、アンリの手をはなしてその場に立ちあがった。そして、もう一度大きな声で叫んだ。「みんな、もう、やめて!」
 その悲痛な声に、場内は一瞬で静まりかえった。スティーヴンは、傍聴席からとびだし、まっすぐにエティエネットの方に向かった。
「・・・あなたが犯人ですね?」それは疑問文だったが、彼は確信しきった口調でそう訊ねた。
 エティエネットはゆっくりとうなずいた。
「あなたが、ぼくの両親を殺し、ぼくとぼくの大切な人たちに怪我をさせた・・・?」
 エティエネットはもう一度うなずいた。
「あなたは、去年の9月と12月、今年の3月、6月、9月の事件の犯人ですね?」アレクサンドルは念を押した。
「ええ」エティエネットははっきり言った。「そして、今回の犯人に間違いないわ」
 ファルロー弁護士は、アレクサンドリーヌの体を離し、エティエネットにつかみかかった。そして、両手でかの女の首を絞めようとした。「この・・・人殺し!」
「やめてください、父上」スティーヴンが弁護士を諭した。「あなたは、母の最期の言葉を聞かなかったのですか?」
 ファルローははっとし、手を引っ込めた。エティエネットはその場にくずおれ、苦しそうに咳き込んだ。
 スティーヴンは、一瞬黙ったあと、父親譲りの威厳に満ちた態度でエティエネットの前にゆっくりとひざまずき、こう言った。「・・・もちろん、ぼくも、あなたを許します」
 エティエネットは、吐き捨てるように言った。「あなたの許しは必要ないわ」
 スティーヴンは、エティエネットを優しく見つめた。そして、ゆっくりと母親の方に歩いて行った。
 そこには、傍聴席から飛び出していた研究所の医者たちがいた。ドクトゥール=ダルベールがゆっくりと首を横に振った。
「・・・そうですか」スティーヴンは小さな声で言った。そして、母親を抱きしめた。
 それが、研究所員たちにとって一番大切な人間が亡くなってから初めて迎えた<家族の日>のできごとだった。
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