FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第66章

第1174回

 コルネリウス=ド=ヴェルクルーズは、1917年の年明けを塹壕で迎えた。志願したときから一緒だった仲間は、すでにアルベール=ルマンとエマニュエル=ロワだけになっていた。三人は、ヴェルダンの戦いを生き延びた時点でお互いに対する信頼を増していた。今では、コルネリウスは二人の上官だった。
 コルネリウスは、仲間たちが束の間の休息を楽しんでいる様子を優しいまなざしで見つめていた。彼自身は、目の前のグラスにはほとんど手をつけず、考えごとを続けていた。
 彼は、戦場に来て以来自分の身にふりかかったことを考えていたのである。そして、彼の周りで起こったできごとを。
 それにしても、戦争が始まってから、人生が変わるようなできごとが多すぎる。伯母のマルグリートが死んだ。そして、かの女にまつわるすべてが明らかになった。若者たちの入り組んだ人生。そもそも、アルトゥール=ド=ヴェルクルーズとルイ=フィリップ=ド=ルージュヴィルの二人が<親友>だったというのが間違いだった。ザレスキー・フランショーム両家の対立が背景にあったにもかかわらず、二人は友人関係を結んだ。少なくても、年下のルイ=フィリップのほうはアルトゥールを友人だと思っていた。たぶん、最初から二人の仲は対等ではなかっただろう。当初は、年上のアルトゥールがルイ=フィリップを弟のように思っていたに違いない。しかし、ルイ=フィリップが先に入試を突破したことで、二人の間の力関係のバランスが狂った。アルトゥールは、一年遅れで大学に入った。その事実は、年上のアルトゥールにとって相当の屈辱だったに違いない。
 ルイ=フィリップは、学校で一番の美女という評判のジュヌヴィエーヴ=ド=ティエ=ゴーロワに恋をした。かの女は、アルトゥールの同級生だった。それが、悲劇の始まりだと誰が思うだろう? これが悲劇だったのは、ジュヌヴィエーヴがルイ=フィリップではなくアルトゥールに夢中になってしまったからだ。アルトゥールは、最初はジュヌヴィエーヴが好きだったのだろう。いや、はじめからかの女が好きではなかった?・・・これだけは、アルトゥール自身に聞いてみなければ、本当のところはわからないだろう。彼は、天国で父親に再会したら、絶対にこれだけは聞こうと思っている。『あなたは、一度は母を愛したことがあったのですか?』と・・・。そうであってほしかった。もし、そうでなかったとしたら、すべては完全な茶番だ。
 コルネリウスは、グラスの中味を一口だけすすった。人生は、この酒のように苦い。
 少なくてもジュヌヴィエーヴの方は、アルトゥールに夢中になっていた。かの女は、ルイ=フィリップが自分を愛していることを知っていたが、あくまでもアルトゥールの友人として扱った。ジュヌヴィエーヴは、大学での最初の夏休み、二人を自分の家に招待した。その夏休みに、二人の人生が決定的に変わった。その屋敷には、二人の不幸な女性がいた。一人は、愛してもいない男性と無理矢理結婚させられたあげく夫とうまくいかずに家を飛び出していとこの家に身を寄せていたエミリー=ド=マルティーヌ。そして、生まれたときから病弱だったジュヌヴィエーヴの姉マルグリート。アルトゥールはエミリーに一目惚れしてしまい、マルグリートは親身に相談に応じてくれる初めての男性に恋心を抱いてしまう。こうして、この5人の関係がもつれてしまうのだ。
『歴史にもしも、はない』・・・これは、コルネリウスが尊敬していた担任の<アヴィ>の口癖で、彼の後に担任になった<モマン=ミュジコー>もその言葉を頻繁に口にした。もともと、誰かの歴史的名言だったはずだ。だが、コルネリウスは《もしも》を考えずにはいられなかった。この5人が全く違う選択をしていたら、今ごろはどうなっていただろう。少なくても、自分はこの世にいなかっただろう。もしかすると、シュリーもそうかも知れない。たぶん、ルイ=フィリップはマルグリートかジュヌヴィエーヴと結婚していただろうから。そして、アルトゥールとエミリーは間違いなく結婚していたはずだ。
 コルネリウスは、もし自分がアルトゥールの立場だったら・・・を考えるのをやめ、もしルイ=フィリップの立場だったら、という考えを進めることにした。ずっと愛していたシャルロットが親友---といって思い浮かぶ顔がサルヴァドール=クートンだったことに苦笑した---と結婚し、二人が自分たちの最初の子どもの名付け親になって欲しいと言ってきたとき、自分なら冷静でいられるだろうか? 考えてみると、その状況は、あの3人が置かれていたものに似ているような気がする。ラタンは、同級生のセシール=ド=ベルジュラークを愛している。あの二人の仲は完全にプラトニックな関係だ。ラタン自身がそれ以上のことを望まなかったからだ。彼は、《きみたちが結婚したら、ぼくもかの女に結婚を申し込もうと思っている》と口癖のように言う。その背景には、彼らの固い友情があり、さらに彼とかの女の間の信頼関係がある。彼には、セシールが別の男性と決して結婚するはずがないという確信があるのだ。その根拠は、コルネリウスにはわからない種類のものだったが。そんな彼がシャルロットと結婚するとすれば、動機はコルネリウスに対する憎しみ以外に考えられない。
 ルイ=フィリップは、すべてを知っていたのだろうか? そのうえで、二人とつきあっていた?
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ