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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第1章

第12回

 それ以降、フランソワーズは、ひたすら作曲に打ち込んでいるように見えた。
 実際のところは、メランベルジェの弟子の男性たちは、かの女をかなり意識していた。淡い恋心を抱いてかの女を見つめていた男性は決して一人や二人ではない。すでに二人の子どもがいるのに、それでもかの女を好きになる男性は決して少ない数ではなかったのである。
 しかし、フランソワーズは、そんな男性たちの誰とも距離を置いていた。
 メランベルジェ自身は、お気に入りのオーギュスト=ベローがフランソワーズと結婚することを密かに願っていた。オーギュスト=ベローは、非常にはにかみやで無口な男性であった。彼は、ベルナール=ルブランのような弁舌の才能も、エドゥワール=ロジェのような人を明るくするような雰囲気も持ち合わせていなかったが、誰よりも謙虚でやさしかった。こういうタイプの男性は、女性にはもてないかもしれないが、決して女性を不幸にすることはない。メランベルジェは、二人を結びつけたいと考えていたのだが、フランソワーズは最後までまったく気づかないふりをしていたのである。
 実は、フランソワーズは、恋をしていたのである。またしても、実現性の乏しい恋愛に足をつっこもうとしていたのである。相手の男性には、すでに妻子がいたからである。
 それは、かなり奇妙な関係であった。
『もっとはやくきみと出会っていたら、ぼくは今の妻とは決して結婚しなかっただろう』から始まるラヴ=レターでその恋はスタートした。二人の関係は、ひたすら文通のみであった。妻子ある男性の家庭をこわすのだけはどうしても避けたい・・・フランソワーズは、そればかりを願っていたのである。そして、このような関係を続けていけば、いずれは彼の熱も下がるであろうと思っていた。
 ところが、恋愛というものは、障害物があればあるほど長続きするものである。
 フランソワーズの予想に反して、彼の熱が下がらないどころか、自分まで感染してしまったのである。 そして、この恋は、なんと20年続いたのである。
 メランベルジェさえ気づかなかった、二人の弟子たちの恋愛物語は、「死」によって引き裂かれるまで続いたのであった。いや、メランベルジェどころか、誰一人、この文通に気づいたものはいなかった。フランソワーズ自身が、後に「これは、主演女優賞ものよね」と言ったと伝えられている。
 この主演男優賞の俳優の名は、エドゥワール=ロジェであった。

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