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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第66章

第1176回

 最初に銃をおろしたのはコルネリウスだった。
『ベルン先生?』コルネリウスは目を丸くして叫んだ。
 そう呼ばれた相手は驚いてコルネリウスを見つめた。まだ銃は構えたままだった。『・・・ヘル=ド=ヴェルクルーズ?』
 コルネリウスはうなずいた。その彼に、もう一人の青年が抱きついた。
『元気だったか、マルフェ?』
 コルネリウスは、その問いに皮肉めいた笑顔を見せた。『この場にその挨拶は似合わないよ、スフィンクス』
 シュテファン=フォン=シュタウフェンベルクは、恥ずかしそうにほほえんだ。『・・・そうだな』
 そんな二人を見おろして、もう一人が声をかけた。
『知り合いか?』
 二人はびっくりして離れた。動けなかったコルネリウスはその場に留まったが、スフィンクスのほうは立ち上がり、上官の前できちんと立った。
『サント=ヴェロニック校での同級生です、ベルン先生・・・いえ、ベルン中尉』スフィンクスが言った。
 ベルン中尉は、二人をかわるがわる見つめた。そして、ポケットからハンカチを出し、コルネリウスの足を縛った。そして、小さな声で言った。
『悪かったな』
 コルネリウスは何も言わなかった。
『いいか、もう少し死んだふりを続けろ』ベルンが言った。『われわれはもう少しでここを去る。そしたら、仲間のところへ帰れ。いいか、命を大事にしろ』
 そして、苦笑した。『・・・こんなところで言うせりふじゃないよな』
 コルネリウスも苦笑した。
『マルフェ、ぼくに気づいていた?』スフィンクスが訊ねた。
 コルネリウスは首を横に振った。
『じゃ、なぜぼくを助けてくれた?』
 コルネリウスは唇の端をゆがめた。『きみには、ぼくを殺せないと思った。ぼくもきみを殺したくなかった』
『それで、ピストルを狙ったの?』
『腕には自信があった』コルネリウスは簡潔に答えた。
『絶対に銃に当てる自身があったの?』
 コルネリウスはうなずいた。『だてに少尉に昇進したわけじゃない』
『命を無駄にするんじゃないぞ。そして』ベルン中尉が言った。『戦争が終わったら、また会おう。どこかで』
 コルネリウスはうなずいた。『二人とも、お元気で』
 二人は黙って頭を下げた。
 コルネリウスは、しばらく死んだふりを続けた。そして、その日の戦闘が終了したあとで、闇に紛れて自分の陣地にたどり着いた。もちろん、ピー=デュヴァルの遺骸を背負って。
 こうして、ピーは生まれ故郷に戻っていった。少しして、ピーの家族からお礼の手紙が届いた。
 この一件のあと、コルネリウスは昇進した。彼は、自分がドイツ人たちと会話したことだけは誰にも話さなかった。
 彼は、戦争が終わったあとになって、ベルン<少佐>がこの戦いで戦死したことを知った。
 この戦いは、それほど過酷な戦いだった。
 後に<ヴェルダンの戦い>と呼ばれることになるこの戦いで、フランス軍もドイツ軍も数知れない犠牲を出した。コルネリウスは、その戦いを生き抜いて、新しい年を迎えたのである。
 誰かがコルネリウスの方をみてグラスを掲げた。コルネリウスは手元のグラスを掲げ、ほほえんだ。そして彼はグラスの中味を一気に飲み干した。
 新しい年がどんな年になるかわからない。しかし、こんなことにはもううんざりだ。
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