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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第66章

第1187回

 シャルロットはほほえんだ。
「いいえ、あなたは、自分が思っている以上に強い人間よ」シャルロットがそう言った。
 彼は首を横に振った。
「あなたは、自分の才能にもっと自信を持つべきだわ」シャルロットが優しく言った。
 彼はもう一度ため息をつき、かの女から視線を外した。「そうしたからって、何かが変わる訳じゃない」
 シャルロットは首を横に振った。「いいえ、変わるわ。あなたが自信を取り戻せば、少なくてもこの家には明るさが戻るわ」
「・・・ここが明るかったことなんかないさ」彼はつぶやいた。
「あら。ヴィンツェンティおじさまは、『笑いを取り戻す』とおっしゃっていたわ」シャルロットは軽い口調で言い返した。「取り戻す、というのなら、あったということじゃないの?」
 彼は首を振った。「彼にはあったのかもしれない。たぶん、彼の奥さんが亡くなる前までのことだろうが」
 シャルロットはびっくりしたように彼を見つめた。
「ぼくにはなかった。ぼくは、心から笑うというのがどういうものなのか、本当はよくわからないんだ」
 シャルロットは目をぱちくりさせた。「これまでに、うれしかったことが一度もなかったの?」
「もちろん、うれしいこともあった。だけど、一緒に喜んでくれる人はいなかった」
「まさか・・・」シャルロットは絶句した。
 かの女は気を取り直して言った。「ありえないわ」
 彼はゆっくり首を横に振った。
「・・・わかったわ」シャルロットはまじめな顔をした。「それじゃ、今度は一緒に喜びましょう」
「つまり、友達になってくれるというの?」
「あら、わたしたち、もうお友達でしょう?」シャルロットはほほえんだ。
 彼はきょとんとした。
 シャルロットは突然笑いだした。そして、彼の手を指さした。
 彼は、手の中でいつの間にか丸めてしまった楽譜を伸ばした。
「・・・ごめん、こんなにしてしまって」
 シャルロットはほほえんだ。「いいのよ。練習するのに差し支えなければ」
「ごめん」彼はもう一度言った。「パパのために、練習してみるよ。いい曲だよね、これ?」
 シャルロットは、懐かしそうな表情を浮かべた。「ナターリアおばさまも、この曲をご存じだったわ。だから、きっとヴィンツェンティおじさまも懐かしいと思うんじゃないかと思って・・・」
「・・・たぶん、そうだろうね」ウラディーミルが言った。
 彼は目を閉じてしばらく考え込んだ。
「パパを驚かせるつもりなら、練習をするとすれば、パパがいないときということになるけど」ウラディーミルがいった。「とりあえず、明日の夕方4時から---大学から戻ってきてからでどうだろう?」
 シャルロットはうなずいた。
 かの女は、部屋を出ようとして、振り返った。
「ありがとう。引き受けてもらえないんじゃないかと思っていたわ」
「引き受けるべきじゃないんだ、本当は」ウラディーミルが言った。
 シャルロットはもう一度うなずいた。
「運命なんだよ」ウラディーミルはつぶやいた。「どうしようもないんだ」
 シャルロットは部屋から出て行った。
「・・・運命なんだ」ウラディーミルはそういいながらドアを閉めた。「なぜならば、もう後戻りはできないから」
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