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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第66章

第1189回

 コニー。コンスタンス=ストックマン=スクロヴァチェフスキーの話をすることは、この家のタブーだということをシャルロットはこの家に来たときから感じ取っていた。みな、意識してこの家には娘がいたということに触れることはない。唯一、ある部屋に鍵がかかっていることについて、ブリッジ夫人が《この部屋は、1年前から封印されているんです》と説明しただけである。かの女の口調には、これ以上のことは聞かないで下さい、という響きがあった。シャルロットは、それ以上のことは聞かなかった。メアリー=アン夫人の思い出を話すことはタブーではなかった---かの女が自分の息子を殺そうとしたことまでブリッジ夫人は説明していた---にもかかわらず、コンスタンスが話題に上ることは一度もなかったのである。この家には、はじめから娘が存在していなかったかのように、誰もがコンスタンスの話を避けた。
「コニーって、誰?」シャルロットはわざとそう訊ねた。「ウラディーミルの恋人?」
 ジグマンドは一瞬きょとんとした顔をしたあと、その顔をくもらせた。そして、短くため息をついた。
「ウラディに恋人がいる、なんて、まさかきみが信じるはずはないと思うが」ジグマンドは小さな声で言った。「彼には、恋人どころか、友人だっていないさ。彼と友達になろうと思った人さえいないはずだ」
 シャルロットは、彼の残酷な言葉に耳を疑った。しかし、かの女は言った。「わたしは、彼の友達よ」
 ジグマンドはゆっくりと首を横に振った。「ありえない」
 不思議そうに見つめるシャルロットに、彼はこう続けた。
「きみは、彼の友達にはなれない。なぜならば、きみは彼の運命の女性だから」
 シャルロットは目を丸くした。「運命の女性?」
 彼はうなずいた。「きみは、彼の運命を変える女性だ。彼にそういわれたことはないの?」
《なんてことかしら。この人にも未来が見えるの?》シャルロットはそう思った。
 ジグマンドはその表情を見て、小さな声で言った。「初めてきみと会ったとき、彼が言った。今日から、人生の新しい章がスタートするのだと。きみは彼の人生を変え、そのためにきみの人生も変わるのだと」
 そして、彼は肩をすくめた。「・・・残念ながら、ぼくには、未来は見えない」
「彼は、『きみに会ってはいけなかった。ぼくは、きみの人生に不幸をもたらすからだ』と言ったわ」シャルロットが言った。
「じゃ、きみは、彼と人生を一緒に歩んでいくという意味での特別なひとではないというの?」ジグマンドは目をぱちくりさせた。
「違うわ」シャルロットは否定した。「少なくても、わたしにはフィアンセがいるわ」
「だが、ウラディはきみを愛している」
 シャルロットは首を横に振った。「まさか。それより、さっきの話の続きが聞きたいの。コニーって誰なの?」
「コニーは、ぼくたちの大切な妹だった」ジグマンドはそう言うと、苦しそうに目を閉じた。その目が開かれたとき、そこに映っていたのは憎しみだった。「かの女は、ミシガン湖で水死体で発見された。あの子は泳げなかったから、自分から湖に行くはずはない。すべって湖に落ちたあともなかった。自殺する理由もない。ただ、死因は溺死だった。かの女は生きたまま湖に落とされ、そこで死んだんだよ」
 シャルロットは震え上がった。「突き落とされたの?」
「そうだろうと考えられている」
「でも、どうしてウラディーミルが関係あるの?」
「あの日の朝、ウラディーミルがかの女に言った。『今日は、外出してはいけないよ』と。でも、その日は平日で、コニーはいつものように学校に行った。しかし、夕方になってもかの女は帰ってこなかった。みんなが心配し始めたとき、彼は言ったんだ。『だから、外出するなと言ったのに。かの女は、ミシガン湖だよ』と」
 シャルロットの唇は震えていた。「・・・そして、その言葉通りだったのね・・・?」
 ジグマンドはうなずいた。その目に涙がたまってきた。「犯人はとうとう見つからなかった。目撃証言が一つもなかった。ウラディは、みどりの目の背の低い男を捜せと言ったが、誰も真に受けなかった。一番怪しいのが彼自身だったから」
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