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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第66章

第1190回

 シャルロットは話の内容よりも、ジグマンドの憎しみに満ちた声にショックを受けていた。
「もちろん、警察もウラディのことを気にしていた。一応は彼の言う通りにしようという素振りを見せたけど、彼らが怪しんでいたのは彼だった。でも、不思議なことに、目撃証言は一つもなかった。コニーが誰かと一緒にいる場面を見た人は一人もいなかった。4時に学校を出て、友達と別れたあと、かの女を見た人は一人もいないんだ。同じように、ウラディ自身にも学校を出てから家に帰るまでの目撃情報は一つもない。彼が犯人ならば、犯行は4時から4時15分というきわめて短い時間に行われたことになる。あそこから家までは、どんなに急いでも15分かかるからね。執事は彼が4時半に帰宅したのを覚えているんでね」ジグマンドは説明を終えた。
 シャルロットは警察に不信感を抱いた。しかし、かの女が考えていたのはフランスでの事件のことだった。マルグリート伯母を殺した犯人は捕まっていない。彼らは、本当に《彼》のことを調べてくれたのだろうか? もし、彼らがちゃんと犯人を捕まえてくれなかったら、また誰かが殺されかねないと言うのに・・・。
 ジグマンドは、シャルロットが思い悩んでいるように見えた。彼は、自分の話にシャルロットが興味を持っていると思いこんでいた。それで、かの女が悩んでいるように見えるのは、ウラディーミルが原因だと思った。
「未来が見えるなんてこと、本当にあるんだろうか?」
 シャルロットははっとしてジグマンドを見た。「コンスタンスさんには、そんなことはなかったの?」
「未来が見えると言うこと? なかったよ」
「そう・・・不思議ね」シャルロットは首をかしげ、もう一度椅子に座った。話が長くなりそうだったから。
 その様子を見て、ジグマンドは暖炉の方に歩き出した。そして、暖炉にもたれるようにして振り返った。
「アグニェシカ=ザレスカには、予知能力が少しあったみたい」シャルロットが話し始めた。「少しというのは、未来が見えるとかそういう具体的な能力があったというわけじゃないという意味よ。かの女は異変を感じる能力があったそうよ。だから、かの女は、いとこが急いでフランスを出ようとしていることを察して、恋人に手紙を出したの。でも、その手紙は恋人の手に届かなかった・・・間に合うタイミングでは。そして、かの女は無理矢理眠り薬を飲まされ、馬車に乗せられた・・・」
 シャルロットは一息ついた。「かの女の娘---わたしたちのひいおばあさまにも、その能力が受け継がれていたわ。でも、かの女の3人の娘たちにその能力があったのかどうかはわからない。でも、かの女の孫たちの何人かは、その能力を持っていた。たとえば、あなたのナターリアおばさまにはその能力があったわ」
 ジグマンドは、へえ、というような表情になった。
「あなたは、女性のザレスキー一族に育てられなかったから、そういう話を聞いたことはないのね。普通、この能力はザレスキー家の女性たちに受け継がれたの。わたしが知ってる限りでは、クラリスおばさまもそうだったわ」シャルロットはそう言い、ため息をついた。「未来に起こることがわかっても、いいことなんか何もないわ。もし、ナターリアおばさまにその能力がなかったら、かの女はもっと長生きできたはずだった」
「もし、未来が見えるのなら、災難を避けることだってできるはずだろう?」ジグマンドは言った。
「ナターリアおばさまの場合は、逆だったの」シャルロットは涙ぐんだ。「かの女は・・・自分が乗っている馬車が襲撃されることを予知したの。でも、かの女は直前までそれを打ち明けなかった・・・。かの女は、馬車が襲撃される30秒前に、わたしを馬車の下に押し倒し、自分はわたしの体に覆い被さったの・・・そして、わたしは・・・おばさまのおかげで命拾いしたのよ。だけど、かの女は・・・」
 シャルロットはすすり泣いた。「かの女は、あのあと、一度も意識を取り戻さなかった。かの女は、その能力を、自分が助かることには使わなかった。かの女は、自分の命をかけてわたしを守ったの。あんなことになるんだったら、馬車になんか乗らなかったのに・・・。わたしは、あの日、馬車に乗りたくなかったのよ。何か悪いことが起こるような気がしていたから・・・。でも、おじさまもおばさまも、旅行に行くのを楽しみにしているようだったから、わたし、何も言えなかった。あのときに、もっと強く反対していればよかった・・・。わたしが、みんなを殺してしまったようなものだわ」
 ジグマンドはぎょっとしたようにシャルロットを見つめた。「つまり、きみも・・・?」
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