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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第66章

第1191回

 シャルロットは、ジグマンドが自分を魔女か何かのように思っているのだろうと苦笑混じりに思った。その恐れを取り除いてあげることはできないが、事実を話すしかない。
 かの女はうなずいた。「未来が見えるわけじゃないわ。ただ、悪い予感がするだけなの」
 ジグマンドは硬い表情をしたままかの女から目をそらしていた。
「いつもというわけじゃないわ。それに、悪い予感がするタイミングもいつも同じじゃないの。わたしは、ザレスキー一族の女性としては、霊感がない方なの。もちろん、リディアおばさまのように全くなかった人もいるから、コンスタンスさんにその能力がなかったとしても全然不思議ではなかったけど」シャルロットは涙をふき、率直に話そうとした。「ただ、その能力が男性に備わっていることを聞いたのは、これが初めて。わたしが知っているザレスキー一族の男性の誰にもその能力があるという話を聞いたことがなかったわ。その男性たちの中には、一族の代表のアファナーシイ=ザレスキー氏や、その孫のヴィトールドも含まれるんだけど」
 ヴィトールド=ザレスキーの名を聞くと、ジグマンドの顔に興味の色が浮かんだ。
「きみは、ヴィトールドを知っているの?」
 シャルロットはほほえんでうなずいた。「彼とは、同じ学校の出身なの」
「じゃ、ポーランドで一緒だったの?」
「いいえ、フランスでよ」シャルロットが答えた。「彼は、ものすごい秀才だったの。でも、あなたの方が上かもしれないわね。あなたは、アメリカで一番の名門校にいるんでしょう?」
 シャルロットは大げさにあこがれの表情を浮かべて見つめたので、ジグマンドはプライドをくすぐられたらしく、簡単に陥落した。「いや、それほどでもないよ」
 シャルロットは即座に、やり過ぎたことに気づいた。彼の表情の中に、これまで浮かんだことがなかったものが浮かんでいるのがわかったからである。その表情には見覚えがある。グルノーブル大学で、かの女は男子生徒からたびたびこんな風な視線を送られた。思いあまって愛の告白をしてしまった若者さえいた。ザレスキー家のブルーの目。その目で見つめられると、たいていの男性が恋に落ちてしまうと言われる。まさか、その威力が同じザレスキー一族にも及ぶとは思わなかった。いまや彼は、うっとりとかの女を見つめていた。自分たちが何の話をしていたかさえ、彼にはわからなくなっているようだ。かの女は慌てて視線をそらした。このまま彼を見つめていたら、彼が何を口走るかわかったものではない。
 案の定、彼はこう言った。「・・・それにしても、きみの目は、なんて美しいんだろう。もちろん、そう言われたのは初めてじゃないよね?」
 シャルロットは冗談めいた口調で言った。「あら、あなたと同じブルーよ」
「ぼくは、母親似なんだよ」彼は言った。「この黒い髪がその証拠さ。コニーも同じような黒髪だった。ウラディだけが父親そっくりの外見なんだ。ただ、ぼくも性格だけは父親に似たのかもしれない」
「能力も、でしょう?」シャルロットは彼を刺激しないように控えめに笑いかけた。「あなたは、お父さまのあとを継いで、将来は社長になるんでしょう?」
 今や彼の関心は、シャルロットに取り入ることに傾いていた。どうやったらかの女に尊敬の念を抱かせることができるか---あわよくば自分に関心を持ってもらえるか、彼はそう考え始めていた。今の発言で、シャルロットが自分に好意を持ち始めたと、彼は思い込んでしまったのだ。
「そうなれるといいけどね」彼は、ほほえみながらかの女を見つめた。
 そのとき、ピアノの音が聞こえてきた。シャルロットは、反射的に音がする方に視線を向けた。
 急に魔法が解けた。
 ジグマンドは、音楽の才能がなかったことに子どもの頃から劣等感を持っていた。ウラディーミルの音楽の先生たちは、《さすがに音楽一家の出身だけある》とウラディーミルを褒めちぎった。ウラディーミルがコンクールで優勝すると、地元の新聞もそう書き立てた。彼は小さい頃からそれが嫌で、がむしゃらに勉強した。そうしないと両親から愛されないと思い込んでいた。常に一番勉強ができ、フットボールの選手として活躍し、人気者でガールフレンドもいっぱいできたが、彼の心の中の空虚さがそれで埋まることはなかった。
 シャルロットは、ザレスキー一族の女性だ。もちろん、音楽が得意な人間の方が好きに決まっている。
 彼の闘争心に火がついた。この女性の関心を、ウラディーミルにだけは奪われたくない。
「もしよかったら、ぼくのことも友達と呼んで欲しい」彼はそう言った。
 シャルロットは、満面の笑みを浮かべてうなずいた。「あら、わたしたち、とっくに友達じゃないの」
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