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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第67章

第1198回

 シャルロットは、ブリッジ夫人のことを考えた。かの女は、ブリッジ夫人個人のことをあまり知らないことに気がついた。かの女は、屋敷で起こったこと、起こっていることをシャルロットに話した。しかし、かの女は自分自身について語ろうとはしなかった。ブリッジ夫人は自分がポーランド系の両親の元に生まれたことは話したが、何人兄弟かということは話さなかった。夫に死なれたことは話しても、彼がどんな人かということを話したことは一度もなかった。ブリッジという姓から考えると、かの女の夫はポーランド系ではなかったようだ。未亡人だということは知っているが、子供がいるとか、いたとか、そういうことにも触れたことはなかった。そういえば、かの女の出身地さえ聞いたことがないし、年齢も知らない。しかし、屋敷中の人が、かの女が優しくて公正な人だということを知っている。思いやりと観察力があることを知っている。それだけではない。かの女は美しい人だった。シャルロットは、さっきのスミスの目を見るまで、かの女が女性として魅力的な人だということに気づかなかった。かの女は、それだけ自分が裏方であることに徹していたのである。かの女ほどの女性だったら、自分の魅力を振りかざせば、執事のスミスどころか、屋敷の主人であるヴィンツェンティの気を引くことだって可能なはずだった。
「ヴィンツェンティおじさまは、ブリッジ夫人と再婚なさるつもりはないのかしら?」シャルロットはそう訊ねてみた。
 ウラディーミルはびっくりしたようにシャルロットを見つめた。その表情からすると、その可能性を考えたことは一度もなかったようだ。無理もない。つい今まで、シャルロット自身がそう思ったことがなかったくらいだ。
「なぜ、そんなことを?」
「あら、あなたが、かの女がお母さまだったら良かったのにといったばかりじゃないの」
 ウラディーミルはほほえんだ。滅多にほほえんだことがない人のほほえみ方で。
「・・・うーん。可能性はなさそうだな」ウラディーミルが言った。「ブリッジ夫人は、再婚をする気がないようだから」
「かの女は、みんなにそう言っているの?」
 ウラディーミルは考えながらいった。「わからない。ぼくは、子供の頃、かの女に母親になってと頼んだことがある。そのとき、かの女はこういったんだよ。『結婚は、もう、こりごりだわ』って」
「かの女は、さっきもそう言っていたわ。どういう意味なのかしら?」
「ブリッジ氏は、かの女に暴力をふるったそうだよ」ウラディーミルは顔をしかめながら言った。「それ以来、男の人は信じられないんだって言っていた」
 シャルロットは考え込みながら言った。「・・・よほど、ひどい目にあったのね」
 ウラディーミルの目には同情が浮かんでいた。「そうだろうね。もし、今、ブリッジ氏が生きていたら、代わりに殴ってあげたのに」
 シャルロットはあきれたように言った。「ブリッジ夫人は、暴力がお嫌いよ」
 ウラディーミルは自分の考えの矛盾に気づき、仕方なさそうにほほえんだ。
「アメリカは民主主義の国だと思っていたわ。何でも話し合って、多数決で決めるのだと」シャルロットは当てこすりを言った。「でも、話し合いじゃなく、暴力沙汰が好きな人がこんなにたくさんいるなんて、思ってもみなかった。アメリカも参戦したのは、こういうわけだったのね」
 ウラディーミルはふきだした。
「お願い。暴力は、もうやめてちょうだい」シャルロットは真顔で言った。
「違うよ。ぼくは、きみを守ろうとしたんだ」ウラディーミルも真剣に答えた。「助けてと言ったのは、きみだった」
「・・・そうだったわね」シャルロットは渋々認めた。「わたしも、発言は慎重にすることにするわ」
「助けてもらわなくても良かった、ということ?」ウラディーミルは顔をしかめた。
 シャルロットはウィンクした。「いいえ、助けを呼ぶときには、スミスさんを指名することにするわ。彼ならば、引き離す相手を殴ったりはしないでしょうから」
 ウラディーミルもウィンクをかえした。「いや、彼はマフィアの子分だったんだよ」
 シャルロットは疑わしげに彼を見た。「それ、本当なのかしら?」
「彼の背中の傷を見たよ」ウラディーミルが答えた。
「彼は、誰にでもその傷を見せるって、本当のことだったのね?」シャルロットはほほえんだ。
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