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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第67章

第1206回

 シャルロットは、そう言い終えたとき、ブリッジ夫人のほおが少し赤くなったことに気づいていた。
「・・・でも、人間は、せっかくの神様からのプレゼントを悪用することを覚えてしまったのです」ブリッジ夫人は顔をくもらせた。「その<儀式>の心地よさを覚えた人間は、神さまが定めたパートナー以外の人と、それを試すようになったのです」
「・・・浮気する男性がいるのは、そのためなんですね」シャルロットが言った。
「そうね。厳密に言えば、浮気するのは男性だけじゃありませんけどね」ブリッジ夫人は苦笑した。「浮気するには、相手が必要なのよ、お嬢さま」
 シャルロットは反応に困り、苦笑した。
「普通、女性は、結婚して初めて<儀式>を行います。かの女の夫は、かの女がその儀式について経験があるかないかは、たいていわかるものです」ブリッジ夫人が言った。
「かの女が痛みを感じるから?」シャルロットが訊ねた。
「・・・わたしは女性だから、実物を見たことはありませんが」ブリッジ夫人が説明した。「たとえば、ワインの瓶についているふたのようなものを連想して下さい。ワインを飲むためには、そのふたを開けなければなりませんよね。逆に言えば、ふたが開いていれば、それは最低一度は開封した瓶だということになりますね。女性の体にも、男性だけがわかる、封のようなものがあるのです。その封を開けるとき、女性の体には痛みが伴うのです」
 シャルロットは恐ろしそうに震えた。
「たいていの男性は、自分がその封印を解くことを喜ぶものです」ブリッジ夫人は続けた。「その封印を解き、一生自分だけのものにしておきたいものなんです。だから、自分の妻にする女性として、経験のない若い女性を好むのです」
 ブリッジ夫人は脅えているシャルロットに優しくほほえんだ。
「男性は、独占欲が強い生き物だから、自分以外の男性と経験したことがある女性を妻とするのをためらいます。結婚したあと、ほかの男性に目を向けられると困るからです」ブリッジ夫人は皮肉めいた口調で言った。「自分は浮気しても、自分の妻の浮気には耐えられないものなんですね。とんだダブル=スタンダードです」
 シャルロットはふきだした。
「ヒラリーに起こったことは、おそらくこういうものだと思うんです」ブリッジ夫人が言った。「かの女の恋人がどの程度まで本気だったかはわかりません。仮に、彼が本気だったとします。誠実な男性だったら、もし最後まで進んでしまい、自分が封印を解いてしまったら、責任を取ってその女性と結婚するだけの覚悟を持っているはずです。それなのに、事態がそこまで進んだのに、彼がかの女と結婚する決心がつかなかったということで、こんな仮説が成り立ちます。もしかすると、彼は、ヒラリーにとって最初の男性ではなかったのではないかしら?」
 シャルロットは目を丸くした。
「だから、彼は、ヒラリーが本気だったとは思わなかった。それで、彼は最終的にかの女から去っていったんです」ブリッジ夫人が言った。「ヒラリーが妊娠したと聞いたとき、彼は、こう思ったと想像できます。『ぼくは、かの女にとって最初の男じゃなかった。もしかすると、かの女には、ぼくのほかに恋人がいるかも知れない。かの女の子どもがぼくの子どもかどうか、あやしいものだ』」
 シャルロットはびっくりした。「まさか」
「もし、そうでなければ、彼は必ずかの女と結婚しようとしたでしょう。二人とも未婚で、結婚には何の障害もないのですから」ブリッジ夫人が言った。「・・・一度でも経験があるというのは、それだけリスクを伴うことなんです。男性はずるいですから、なるべく有利な結婚をしたがります。こんな目に遭いたくなかったら、結婚するまで、男性と<おつきあい>はすべきではないのです。わかりますか?」
「でも、ヒラリーは、彼と結婚を考えていたんでしょう?」シャルロットは沈んだ表情になった。「だから、彼にすべてを許したんじゃないの?」
「そうね、ヒラリーという子は、そういう子だわ」ブリッジ夫人が言った。「でもね、その論理は男性には通用しないの。ちゃんとした男性なら、結婚するまでは女性に過度の要求をしないものだし、女性もたしなみをわきまえる必要があるの。そして、結婚まで彼をはねつけられるくらいの女性を、男性は求めているの。そういう女性なら、一生自分だけのものでいると思っているのね。考えてみると、おかしな話よね?」
 シャルロットは混乱し、その話をどう解釈すべきかわからずにいた。
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