FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第67章

第1210回

 その翌日の朝、シャルロットは新聞で事件を知った。シカゴ国際ピアノコンクールの優勝者ウラディーミル=ストックマン=スクロヴァチェフスキーが、演奏直後から行方不明になっている。このままでは、授賞式も受賞記念コンサートもできない状態だ・・・。
 シャルロットは新聞をテーブルに置いた。かの女には、混乱しているウラディーミルの様子が想像できた。そして、彼の次の行動も予測できた。自分の考えに間違いがなければ、彼はかの女を探すはずだ。そして、近い将来、かの女を見つけるはずだ。このまま行方をくらますか、それとも直接対決を挑むか。シャルロットは、ヨーロッパに行く船の予約を船会社ごとに行った。どの船に乗るかわからないようにしたのである。そして、その全部を出発間際にキャンセルするつもりでいた。かの女は、帰る前にどうしても行きたいところが3ヶ所あった。アンダースン夫人のところと、フロリダの海岸と、ハンプトン夫人の墓だ。その用事を済ませるまでは、アメリカを去りたくはなかった。
 かの女が予想しなかったことが一つあった。ウラディーミルがその日のうちにかの女の居場所を突き止めたことだった。
「・・・行くな!」ウラディーミルは部屋のドアを開けるなりそう言った。「船の予約はキャンセルした」
 シャルロットは、ドアのところに青ざめて立っているウラディーミルを見つめた。かの女は、<船の予約>が単数形だったことに気づく程度には冷静だった。
「行かないでくれ、でしょう、ミスター=ストックマン?」シャルロットは、言葉遣いを訂正するときの教師のような口調で言った。
 ウラディーミルは、そんなかの女をにらみつけた。
「それに、ノックもしないでドアを開けるなんて」シャルロットはすまして続けた。
 ウラディーミルは小さなうなり声をあげ、反論した。「きみと同じことをした。きみだって、初めてぼくの部屋に来たとき、ノックをしなかったよね?」
「・・・まあ、記憶力がいいのね・・・」シャルロットはつぶやいた。それから、かの女は普通の大きさの声で言った。「でも、わたしは、いきなり命令はしなかった。逆に、あなたは『入るな』と言ったわ。あのときも、命令形だった」
「入ってよろしいでしょうか、お嬢さん?」ウラディーミルが静かな口調で言った。しかし、怒りはおさまっていないようだった。
「どうぞ」シャルロットは答えた。
 ウラディーミルは、テーブルに手をついて立ったまま言った。「一緒に帰って欲しい」
「わたしが帰るべきところは、シカゴではないわ。もしかすると、あなたもそうじゃないかしら?」シャルロットはやんわりと反論した。「あなたがここにいるということは、おそらく、あなたはお父さまと喧嘩して飛び出してきたんでしょう?」
 ウラディーミルは赤くなった。
「そして、わたしの予想が間違っていなかったら、あなたのお父さまは、わたしを追いかけるなと言ったはず」シャルロットが続けた。
「その通り」ウラディーミルが言った。「何があっても、ぼくたちが結婚することは許さないと言い切った」
 シャルロットはびっくりした。「わたし、あなたと結婚したいと言った覚えはないし、あなたにそうしてほしいと言われた覚えもないわ・・・」
「きみがフランショーム一族のフィアンセと結婚することがザレスキー一族の掟だというのなら、ぼくは、ザレスキー一族を捨てる。そして、きみにも捨てさせてみせる」ウラディーミルが言った。「父にはそう言って家を出てきた」
 シャルロットはあぜんとした。
「その決心が変わらないなら、二度と帰ってくるな、と父は言った」ウラディーミルはさらりと言ってのけた。「二度と帰るものか、とぼくは言った」
 シャルロットは口の中でうめき声を上げた。そして、こう言った。「家に戻りなさい。そして、お父さまに謝るべきだわ」
「何を?」ウラディーミルは言った。「ぼくは、謝らなくてはならないことは何も言っていない」
 シャルロットは首を横に振った。「いいえ、あなたは、シカゴに帰ってお父さまに謝らなくてはならないのよ。そして、わたしは・・・」
「そしてきみには、ずっとぼくのそばにいてもらいたい」ウラディーミルはひざまずいた。「ぼくは、寝ても覚めても、きみのことだけを見ていたい。そして、可能なら、きみに看取られて死にたい。愛している。どうか、ぼくと結婚して欲しい」
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ