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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第7章

第120回

 フランソワーズ=ド=ラヴェルダンと別れた後、シャロンがその消息を聞いたことはただ一度だけである。生まれたばかりの子どもを連れて失踪した・・・それだけであった。シャロンは、その後、かの女の消息を知ろうともしなかった。実のところ、知りたくなかったのである。子どもを道連れに自殺したのだと思いこんでいたからであった。しかし、考えてみれば、彼が知っているフランソワーズという女性は、間違ってもそんなことをするような女性ではなかった。
 シャロンは、ステラがかの女のことをどのくらい知っているのか、と考えた。『彼は、身ごもっていた女性を捨てた。その女性は、生まれたばかりの子どもを連れて失踪した』という噂をステラは知っていたが、その女性の名前を知っていたかどうかは彼にはわからなかった。たぶん、知らなかったのだろう・・・と彼は思っていた。もし、知っていたら、自分の息子に「フランソワ」という名前を選んだだろうか? いや、知っていてその名を選んだとすれば、それにどんな意味があったのか・・・? もし、知っていたら、かの女は、フランソワーズの消息を調べさせたりしたのだろうか・・・?
 彼はかの女を見つめた。まさか、そんなことを確認するわけにも行かない。
 フィルは、両親が何となく不機嫌な様子になったので、新聞の朗読をやめた。
 食事は、終わりに近づいていた。
 シャロンは、妻がデザートスプーンを置くのを見て立ちあがった。
 彼が先に食堂を出るのは、決して珍しいことではなかった。彼が立ち去ってから、フィルが母親の手を引いて食堂から出るのはごく普通の習慣になっていた。ただ、この日の朝だけは、ステラは夫に声をかけたのである。
「あなた、お願いがあるんですけど・・・」
 シャロンは、もう一度椅子に座った。
「まもなく、3月になります。今年こそパリに行ってみたいんですが、どうかしら?」ステラが言った。
 シャロンの表情がくもった。
 あれから、7年になる。
 この季節にパリに戻るのはどんなものだろう・・・?とシャロンは思った。
「きみの体調は、どうなの?」シャロンが訊ねた。「それに、フィルはまだ小さい。風邪をひいたら大変だ」
 ステラはうなだれた。「・・・そうですね、フィルのことを考えなくてはね・・・」
 フィルは、『ぼくなら大丈夫です』と言おうとしたが、シャロンが身振りでそれを止めた。今日の父親は、どこか変だ・・・彼は思った。黙っていた方が良さそうだ・・・。
「・・・そのうち、暖かくなったら考えようね・・・」シャロンはそう言って立ちあがった。
 フィルも立ち上がり、ステラの方へ向かった。
 二人は、無言でフィルの部屋に入った。
 フィルは、母親をいつもの椅子に座らせ、自分はその近くに座った。
 まだ、カロリーナ=ロストフスカの姿はなかった。
 フィルは母親の方を見た。ステラはほほえみながら、息子に尋ねた。
「・・・何か、聞きたいことがあるんじゃない、フィル?」
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