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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第7章

第121回

 フィルは、今朝の両親の会話の中に、自分が知らないことがたくさん出てきたことに困惑していた。彼らが、自分に何かを隠していること、隠そうとしていることがあることに気づいていた。彼は、何を質問していいかわからなかった。
 ステラにもそれがわかったようだった。「あなたは、優しい子ね、フィル・・・」
 フィルはますます困惑した。
「・・・あなたは、ほんとうは、パパの3番目の子どもなのよ・・・」ステラは優しい口調で話し出した。「一番上の子どもは、男の子だった。でも、ある事情で、今は一緒に暮らせないの・・・」
 フィルは驚いて母親を見つめた。
「・・・どんな事情かは、あなたがもっと大きくなったら、ちゃんと説明します」ステラが言った。「あなたは、まだ4歳だから、難しいことはよくわからないわ」
 ステラはそう言いながら、<一番上の息子>の存在を今日まで知らなかったことを思った。正確に言えば、その息子の存在を知らなかったわけではない。すでに死んでしまったものと思っていたのである。
「・・・お兄さんに会いたいでしょうね・・・」ステラはフィルに訊ねた。
 フィルは黙ってうなずいた。
 ステラは、息子の沈黙を肯定の意味に取った。
「いずれ、会えるわ」ステラはほほえんだ。「生きていれば、そのうち、きっと・・・」
 そう言うと、ステラの顔がくもった。かの女は下を向いた。涙がこぼれそうになった。
「・・・ママン・・・?」フィルが心配そうに訊ねた。
「・・・二番目の子どもは、女の子だった・・・。でも、かの女は、小さな天使になって、天国に行ってしまった・・・」ステラは悲しそうに言った。
 フィルは母親の表情にショックを受けた。
「かの女は、7年前の3月にパリで生まれたの」ステラはそう続けた。「・・・ほんとうにかわいい子どもだった・・・。でも、ある晩、おうちが燃えて・・・かの女はとなりの部屋にいたの・・・わたしは、かの女を助けることができなかった・・・」
 フィルは、母親の涙を見て自分も悲しくなってきた。
 彼には、母親の奇妙な態度の理由が初めてわかった。どんなときにも、自分が近くにいないと落ち着かなかった母親・・・ちょっとでも離れると、また子供を失ってしまうのではないか・・・そんな不安で苦しめられていた、その理由がやっとわかったのである。
 そして、さっき、パリに行きたいといった理由が。
「ぼくは、大丈夫ですよ。ぼくは、ずっとここにいます、あなたのそばに・・・」フィルは母親に抱きついた。「・・・何があっても、あなたのそばを離れません。約束します。ぼくはまだ小さいけど、ママンを助けたい・・・」
 彼は彼なりに、母親に自分の気持ちを伝えようとしていた。ステラにもそれがわかっていた。
「ありがとう、小さな騎士君」ステラは涙を拭いた。「あなたは、優しい子ね。パパそっくりだわ・・・」
 フィルは、母親を慰めることができないことを残念に思っていた。もっと大きくて、もっとちゃんとした言葉で自分の気持ちを伝えられていたら、彼はこう言っただろう。
『・・・お姉さんを亡くしたのは、決してあなたのせいじゃありません。自分を責めないで。ぼくがいるじゃないですか。ぼくがかの女の分もあなたを愛しているじゃありませんか・・・。もう、泣かないでください・・・』
「あなたのおかげで、わたしは、とても幸せなのよ、フィル」母親がこう続けた。かの女は、息子のために無理にほほえんだ。
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