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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第7章

第122回

 一方、シャロンのほうも、ふいに、フランソワーズ=ド=ラヴェルダンという名前を聞き、混乱していた。行方不明と聞いて以来、死んでしまったのだと思っていた、彼の初恋の女性・・・。
 生きていてよかった、と心から思った。その一方で、これまでどんなに苦しい思いをして生き続けてきたのだろう・・・と心が痛んだ。別れて以来、一度もかの女のことを助けてやれなかった。生きていたのなら、かの女のために何かしてやりたかった。そして、一度もあったことがない息子のためにも・・・。
 あのあと、かの女に何が起こったのか、彼は知りたいと思った。
 彼は、悩んだ末、思い切ってフランソワーズ=ド=ラヴェルダンのことを調べることにした。
 数日後、彼の弁護士は、報告書を送ってきた。
 その調査結果を見て、シャロンは考え込んだ。
 フランソワーズ=ド=ラヴェルダンは、彼と別れた後、1873年に子どもを出産した。男の子で、アレクサンドル=シャルル=ド=ラヴェルダンと名付けられた。出産後、かの女は音楽院を退学し、作曲家メランベルジェの弟子となった。メランベルジェは、フランソワーズの音楽院でのピアノの師だった人の夫である。
 その後、1879年、当時4歳だったクラリス=ド=ヴェルモンという少女を養女として引き取っている。その少女は<ナンネル=モーツァルトの再来>とまで言われるほどの天才少女で、師のメランベルジェも驚くような作曲の才能の持ち主だそうである。
 フランソワーズが公に作品を発表するようになったのは1880年ごろからで、主に室内楽曲を書いている。現在、息子のアレクサンドルが作ったテーマからなる弦楽四重奏曲を作曲中である。作品はもうほとんど完成していて、秋に初演が決まっている。演奏は、フランソワーズの友人のヴァイオリニスト・テオドール=フランク氏をまねいて、家族全員で行う予定である。8歳の息子がチェロ、6歳の養女がヴァイオリンを演奏することになっているが、この二人の演奏も期待されていて、新聞に発表されたとたん、チケットがほぼ売り切れたそうである。
 報告書を読んで、シャロンは思った。
 友人のテオドール=フランク氏、というのが、かの女の新しい恋人なのだろうか・・・?
 恐らくそうに違いないと思ったが、さらに調べさせると、フランク氏にはすでに妻がいることがわかった。彼の妻は、ソフィ=マリアンヌという名前であった。その名前には聞き覚えがあった。音楽院在学当時のフランソワーズの親友の名前である。確か、旧姓はティボーだったはずだ。
 なるほど、家族ぐるみのつきあい、というわけか・・・。
 シャロンは首を振った。
 彼は、フランソワーズがまだ結婚していないことを残念に思っていた。かの女には、幸せでいて欲しかった。かの女はひとりで二人の子どもを育てている・・・そう思うだけで、彼は苦しかった。何か、かの女の助けになりたかった。しかし、かの女には、何の手助けも不要であろう。かの女は、いつだって自分の人生を自分一人の手で切り開いてきた。かの女は強い女性である。手を貸そうとすることは、逆にかの女に対する侮辱かも知れなかった。彼が知っているフランソワーズ=ド=ラヴェルダンという女性は、そういうひとだった・・・。
 シャロンは、二通の報告書を封筒に戻した。そして、引き出しにしまって鍵をかけた。
 シャロンは、どんなことをしてでも、そのコンサートのチケットを手に入れようと思った。
 たとえどんな結果になろうとも、かの女に会いたかった。
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