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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第70章

第1253回

 翌朝、コルネリウスが目を覚ましたとき、シャルロットはウラディーミルの足元にひざまずいたまま眠っていた。彼はシャルロットを抱き上げた。かの女は目を覚まさなかった。よほど疲れているのだろう。コルネリウスは、長椅子にかの女をそっと横たえ、首のところまで毛布を掛けた。
---毛布・・・?
 コルネリウスは、自分が眠っている間に、シャルロットが毛布を掛けてくれたのだろうと思った。自分はそれに気づかずに眠っていた。かの女は、どのくらいああやって祈っていたのだろう?
 彼は二人を残し、部屋を出た。階下に行き、学校に欠席の電話をかけたあと、彼は部屋に戻ろうとしたが、思い直し、受付に行った。ドニ=フェリーの病室の場所を聞くためだ。病棟3階の21号室。彼の記憶では、サント=ヴェロニック校が見える二人部屋だった。彼は杖をつきながらゆっくりと階段を上った。
 コルネリウスが入っていくと、ドアに近い側のベッドに寝ていたドニ=フェリーがうれしそうに声をかけた。
「来てくれたの、ドンニィ?」
 コルネリウスの顔は、ドニの同室の患者の方に向けられた。その患者は、天井から吊られたひものような物で足を固定して横たわっていた。彼は、コルネリウスに気づくなり青ざめた。
 コルネリウスの驚いた顔を見たドニは、同室の患者に言った。「どうしたの、トト?」
「・・・びっくりした」男はまるで俳優のようにはっきりとした発音のフランス語で言った。小さな声なのに、よく通るその声をコルネリウスは忘れたことはない。「まさか、こんなところでサント=ヴェロニック校の同窓会をすることになろうとは思わなかったんでね。こんにちは、コルネリウス」
 男はヴィトールド=ザレスキーだった。近づいてみると、彼は両足だけではなく、体もベッドに固定されているようだった。かなりひどい骨折をしているようだ。それでも、二本の腕だけは自由に使えるらしく、彼はその姿勢で本を読んでいた。
 彼の枕元の小さなテーブルには、彼の階級章とサファイアのロザリオが置かれていた。相変わらず軍人にしては線の細い感じに見えるが、階級章によれば、彼は大佐だった。
「・・・マルフェで結構です、大佐」コルネリウスは、軍隊の上官に言うような口調で言った。
 ヴィトールドはくすくす笑った。コルネリウスらしくない話し方だったからだ。そして、彼はコルネリウスに注意を払うのをやめ、読んでいた本に目を戻した。
 コルネリウスもドニの方を見た。「具合はどう、ドニ?」
 ドニはほほえんだ。「相変わらずさ。それより、シュリーはどうなの?」
 出し抜けに、ヴィトールドは真っ赤になった。これで、彼が本を読んでいるふりをしていることがコルネリウスにもわかった。コルネリウスは、例の皮肉めいた笑いを口の端に浮かべ、わざとヴィトールドの方に顔を向けた。ヴィトールドが動揺しているのがわかると、意地の悪い喜びを感じた。
 それに気づかないドニは、コルネリウスが笑った理由がわからなかった。
「会いたいのか?」コルネリウスが訊ねた。
 ドニは赤くなった。「意地の悪いところだけは、相変わらずだね、ドンニィ」
「わかった。あとでここに来るように言っておくよ」コルネリウスが言った。「たぶん、ウラディーミルの意識が戻ってからになると思うけどね」
「ウラディーミル?」ドニは首をかしげた。「・・・例の男か?」
 コルネリウスはうなずいた。
「怪我はひどいのか・・・?」
「彼は、背中を打っている。そのほかには、ガラスの破片がいくつか体に残っている。もう一度手術をすることになるだろうね」コルネリウスが言った。「・・・心配しているのがシュリーの方なら、かの女は大丈夫だ。ほとんど無傷だ」
 ドニはさらに赤くなった。
「大佐、あなたならご存じでしょう、ウラディーミル=シュトックマン=スクロヴァチェフスキーという名前を」コルネリウスはヴィトールドに話しかけた。
 ヴィトールドは顔を少しかたむけ、コルネリウスを見た。「・・・ザレスキー一族の人間だな。たしか、アメリカにいるはずだが・・・?」
「彼は、シャルロットを追いかけて、フランスにやってきました」コルネリウスが言った。「そして、かの女を助けようとして大怪我をしたんです。今、集中治療室にいます」
 それを聞くと、ドニの表情がくもった。「・・・それはまずいな」
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