FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第70章

第1259回

「次の日の朝だと? いったい何度楽しむ気だ?」ドニはにやりとした。そして、彼はうっとりとした表情になった。「ぼくは、そんな贅沢は言わない。たった一度でいい。ぼくは上にのって・・・」
 ヴィトールドはわざとらしく咳払いをした。
 彼は、目を丸くして自分を見つめている女性が目の前にいたことに気づき、品のない冗談を打ち切って真っ赤になった。
「・・・いや、その・・・失礼。不適切な冗談だった」ドニは口ごもった。
 シャルロットはあぜんとして二人の男性を見た。「・・・あなたたちったら・・・」
「きみは、とってもきれいになった。きみほどの女性なら、もう聞き飽きただろうが・・・」ドニが言った。「今のきみを目の前にして、欲しくないと思う男性がいると思うか?」
 シャルロットは真っ青になった。
 ドニはそれには気づかなかった。「いるとしたら、よほどの変人に違いない。たぶん、コルネリウス=ド=ヴェルクルーズという名前だな、そいつは」
 そして、彼は続けた。「だが、それは、あいつの本心ではないはずだ。彼は、きみに夢中だ。小さい頃から知っている仲だぞ。今更欲しくないなんて、思うはずはない」
 シャルロットは首を横に振った。「彼は確かに、いらないと言ったわ」
「ドンニィが本気でそう思うものか」ドニはふん、と鼻を鳴らした。「むしろ、心配なのはきみの方だ。きみは、愛する人が幸せになるのなら何でもできる女性だ。もし、彼が『ぼくは、ベアトリス=シャルパンティエと結婚する』と言ったら、黙って身を退くんじゃないのかな? きみはそういうひとだ」
「もし、コルネリウスがそう言ったとしても、それは彼の本心じゃない。いや、彼にその言葉を言わせてはいけないんだよ」ヴィトールドが言った。「その前に、彼に言うんだ。自分の本当の気持ちを。彼を愛しているのなら、彼をしっかり捕まえておかなければならない」
「だけど、彼がベアトリスを選ぶというのなら、それはそれで仕方がないことだわ」シャルロットが言った。
「そんなんじゃ、きみたちは幸せにはなれない」ドニは声にならないような声で言った。
 シャルロットは首を横に振った。
「じゃ、こう考えてごらん。クラリス=ド=ヴェルモンとロビン=カレヴィの恋愛から教訓を学ぶべきだ。彼らは、不幸な行き違いから別れることになった。彼らの間の行き違いというのは、こうだった」ヴィトールドは話し始めた。「フランショーム一族の男性は、ザレスキー家の女性に弱いのは事実だ。彼らは愛しすぎるんだ。かの女たちが自分たちと同じように考えると思いこむのが彼らの欠点だ。自分の思いを口に出さなければ、女性に通じないという単純な事実を彼らは忘れてしまう。ザレスキー家の女性に限らず、女性という生き物は、男性に『愛している』と言い続けてもらいたいものなんだよね。愛されていると何度でも確認させてもらいたいんだよね。男性はいちいち言葉に出さなくてもそう思い続けている。でも、女性にはそれが通じない・・・」
 ヴィトールドは小さなため息をついた。「だが、フランショーム一族を愛してしまった女性に必要なのは、男性の気を引き続けることだ。彼らに選んでもらえるようにし向けなければならない。さりげなくでも構わない。自分は彼を諦めないということを、彼に発信し続けるんだ。ザレスキー家の女性は強い。フランショーム家の男性より、ずっと・・・。きみには、それができるはずだ、もし彼が本当に好きならね」
 そう言いながら、ヴィトールドはシャルロットを見つめていた。シャルロットが当惑する様子を見つめているうちに、彼は自分の心の中に今までほとんど気づかなかった感情が芽生えていたことに気づいた。
---もし、可能なら、自分が彼に取って代わりたい・・・。ヴィトールドは、はっきりそれを自覚した。そして、戸惑いを覚えた。いや、だめだ。自分は、かの女と彼を結びつけなければならないのだ。それは、自分に与えられた義務だ。ザレスキー一族の当主になるべくして育てられた彼の義務なのだ・・・。
 ヴィトールドは、『ザレスキー一族であることをやめる』と言い切ったというウラディーミルの勇気をうらやましいと思った。そうだ、シャルロットと結婚するというのは、彼の立場では、そこまでの覚悟がなければできないことなのだ。彼は自分の心の中を覗いた。そして、自分の心の奥底にもその覚悟が眠っていることに気づいた。その感情がいったん目覚めれば、彼は自分が向こう見ずな行動を起こすだろうと悟った。ザレスキー一族を捨てる。シャルロットを自分のものにするためになら、それくらいどうってことはない。むしろ、今までそうしなかった方が不思議なくらいだ。もし、シャルロットが少しでも自分に気がある素振りを見せさえすれば、自分は何もかも捨てられる。かの女に愛されてさえいれば、何も恐いものはない・・・。
 シャルロットは、ヴィトールドの目の中に不思議な光が浮かんでいることに気づいた。彼は、無意識にシャルロットに誘いかけている。シャルロットはそれに気づき、戸惑いを覚えた。この人の本心は、口に出している方なの、それとも目に現われている方・・・?
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ