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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第70章

第1260回

 シャルロットは、それからも一日に一度、ドニたちの部屋に顔を出した。どんなに巧みに隠そうとしても、かの女が疲れていることは目に見えていた。
 ヴィトールドの担当看護師もベアトリス=シャルパンティエだったので、ふたりはさりげなくシャルロットの様子を聞き出すことに成功した。
「ミスター=ストックマンは、ほぼ一日中シャルロットさんと一緒です」ベアトリスはそう言った。「彼は、かの女を手放そうとはしませんから。自分の必要がないときにさえ、シャルロットさんを部屋から出そうとはしません。シャルロットさんは、彼の枕元で編み物をしたり刺繍をしたりしています。誰のためにセーターを編んでいるのか、誰のためのベッドカバーなのかはわかりませんが・・・」
 ベアトリスは、少し顔をゆがめた。《・・・でも、わかるでしょう?》かの女の目はそう語っていた。
 実際はベアトリスの考えていることはあたっていなかった。シャルロットは、エマニュエル=サンフルーリィのためにセーターを編み、ベッドカバーを作っていた。そばにいられない娘からの、ささやかな贈り物として。もちろん、ウラディーミルはそれを知っていた。彼はかの女をそばに置いている。彼は、かの女の父親に対する罪滅ぼしのような気持ちでそれを見つめていた。もしかすると、そのセーターができあがったら、今度は自分のために編んでくれるだろうか・・・? そうであってほしかった。
 しかし、二人の青年たちは、ベアトリスと同じように思いこんでいた。そして、彼らはそれぞれに心の中であたたかい夢を見ていた。もし、そのセーターが自分のためのものだったら!
 ヴィトールドの方が先にその夢から覚めた。彼は、ベアトリスが顔をゆがめた理由に思い当たった。信じられないことだが・・・。
「ベアトリスさん」ヴィトールドはかの女にいきなり言った。「あなたは、恋をしているんじゃないんですか?」
 ベアトリスは赤くなった。
「図星ですね」ヴィトールドはほほえんだ。
 ドニは意外そうな顔をした。「まさか、コルネリウスにか?」
「まさか。コルネリウスは、わたしの好みのタイプじゃないわ。それに、彼は恋をしている---ずっと。そう、15年以上も同じ女性を見続けているわ」ベアトリスがドニに言った。
「コルネリウスは、あなたの意中の人を知っているの?」ヴィトールドが言った。
「いいえ」
 ヴィトールドはほほえんだ。「話すべきですよ」
「無駄ですわ。彼がどう思おうと---いいえ、わたしたちがどう思おうと、父の考えは変わりません」
「でも、言わなくては。少なくても、コルネリウスがあなたと結婚するという選択肢を、彼に考えさせないために」
「それだけでは足りない」ドニが言った。「あなたは、その男性を口説いて、駆け落ちしなさい」
 ベアトリスは真っ赤になった。
「ぼくが元気だったら、彼のかわりにその役を引き受けたいところだが・・・」ドニが言った。
「本物の恋人が相手でなければ、ドクトゥール=アンドレには堪えないだろうね」
「・・・本当に困った人たちね・・・」ベアトリスがため息混じりに言った。
「まったく困ったひとたちだ」ヴィトールドが同じ口調で言った。「シャルロットにも言った。コルネリウスを口説きなさいと。でも、かの女はためらっている。あなたもだ。女性というのは、どうしてわからないのだろうね。女性に口説かれて喜ばない男性はいないのに」
「あら、あなたは、わたしに口説かれたら、本当にうれしいの?」ベアトリスが訊ねた。
「悪い気はしませんよ」ヴィトールドはほほえみながら言った。「彼だってそうじゃないかしら?」
「・・・そうだといいんだけど・・・」ベアトリスはもう一度ため息をついた。
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