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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第70章

第1262回

 しかし、ドニの表情は次第にくもっていった。本当は、彼だって一度はシャルロットに『愛している』と言われたかったに違いないのだ。ドニとコルネリウスは、ずっとシャルロットと一緒だった。二人はずっと同じ少女を愛していたのだ。15年以上も。
「あなたは、看護師だから、ウラディと一緒にいるのはちっとも難しくはないわ」シャルロットが言った。「彼のそばに行ったら、ほほえんで会話をすること。そして、歩行練習が始まったら、彼を優しく励ますこと。できれば、《あなたって、すてき》という表情を彼に見せること・・・」
 ベアトリスはつぶやいた。「あら、彼はすてきだわ」
 そして、小さい声で付け加えた。「彼の目って、とってもきれいだわ。わたし、彼が意識を取り戻した瞬間に一目惚れしてしまったのよ・・・」
「あのとき・・・?」
 シャルロットは覚えていた。ウラディーミルが意識を取り戻したとき、ベッドのそばにいたのはベアトリスだった。ウラディーミルは目を開けるなり、『・・・ここは、天国?』と英語で訊ねた。
『いいえ』ベアトリスはにっこりほほえんで答えた。彼の目に吸い込まれそうだと思いながら。天国の空は、きっとこんな色に違いない。
『では、あなたは天使ではないのですね?』彼はそう訊ねてから、こう言ったのだ。『・・・ロッティは無事でしたか?』
 ベアトリスは悲しそうな表情で一歩下がり、シャルロットを前に出したのである。
『この方は、天使ですよ』シャルロットは英語で言った。『かの女の名前は、ベアトリーチェですもの』
『ベアトリーチェ?』ウラディーミルはそう言うと、うれしそうにベアトリスを見た。『あなたにぴったりの名前ですね』
 しかし、ウラディーミルがかの女に興味を示したのはそこまでだった。彼の関心は、自分自身の症状に向けられてしまったからだ。痛みが彼の集中力をそいだ。彼は目を閉じ、痛みに耐えようとしたのである。
 そのとき、シャルロットは気づかなかった。ベアトリーチェがかの女のダンテをどう思っていたのかに。
 ベアトリスはほんの少しだけ頭を動かした。
「そうなの・・・」シャルロットはそう言いながら、急にヴィトールドに視線を向けた。「ねえ、ヴィトールド・・・」
「うん・・・?」ヴィトールドは急にシャルロットに見つめられ、どぎまぎした。
「ザレスキー一族の男性は、やはりブルーの目で女性を引きつけられるの?」
 ヴィトールドは少し考えてから答えた。「わからない。昔から、女性の武器だと思われているんでね。ザレスキー一族の女性は、同じザレスキー一族の男性から見ても魅力的な存在だ。その証拠に、ザレスキー一族同士のカップルが多数存在した。もっとも、そのほとんどが、当主たちだけどね。ザレスキー家の当主は、ここ何代かは同じザレスキー一族の女性と結婚している。両親がそうだし、祖父母もそうだ」
「そして、きみも・・・?」ドニが口をはさんだ。
「ああ。そうするように勧められてはいる」
 ヴィトールドの脳裏に、ほんの一瞬だけユーリア=クリモヴィッチュヴナという名前が浮かんだ。しかし、その顔は目の前にいるシャルロットの顔だった。「・・・とてもきれいなブルーの目をした女性と結婚するように、と」
 シャルロットはヴィトールドの目をのぞき込んだ。そして、かすれた声で言った。「・・・ザレスキー一族の女性が、同じ一族の男性にひかれる気持ちが、今、少しわかった気がするわ・・・」
 ヴィトールドは真っ赤になり、かの女から目をそらした。
「知らなかった。ザレスキー一族の男性に、こんな魔力があるなんて」シャルロットもヴィトールドから目を背けた。
 かの女は咳払いし、いつもの声に戻った。「ベアトリスさん、彼をお願いします」
 ベアトリスはほほえんだ。
「・・・きっと、こういうことだったのね」シャルロットが小さい声で言った。「ウラディは、わたしが彼の運命を変える女性だと言った。それは、わたしが彼にあなたを引き合わせる女性だったという意味だったんだわ。彼は、あなたに出会うためにわたしを追いかけていたのね」
 それを聞いた3人は驚いた。
「彼も、自分の運命に気づいてくれればいいのだけど。運命の女性が目の前にいることに・・・」シャルロットはそう言うと、急に黙り込んだ。
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