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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第70章

第1266回

 ドニは苦しそうに息をした。
「うぬぼれではなく、ぼくは昔から女の子にもてた。どんな女の子も、ぼくが誘いをかけると簡単に振り向いてくれた。そうでなかった女の子は一人しかいなかった。シャルロット=ド=ラ=ブリュショルリー。ぼくの幼なじみであり、たった一人の親友だった少年のいいなずけ。そして、たったひとり、ぼくの心を奪った女の子・・・。かの女以上の女性がこの世にいるなんて、それまで考えたこともなかった・・・。ぼくは、その小さな天使を振り向かせようと思った。ぼくの方が先に夢中になるなんて、5年ぶりのことだった・・・」
 シャルロットは口をはさまなかった。
「そんなとき、演劇コンクールが行われた。そして、ぼくに主役のアラン=ドルスタンス役が回ってきた。初めて劇を見たときから、もしこの劇が再演されるならこの役はぼくに回ってくると確信していた」ドニが言った。「しかし、あの劇は地獄だった。実際にステージに立ったとき、ぼくは劇の主役ではなかったと悟った。あの劇の本当の主役はマクシム=デュランだった。マクシム役のドンニィが、アランの恋人のはずのアニーと<恋愛>を演じている。ドンニィの迫真の演技を見ているうち、ぼくにはわかった。そこにいるのはマクシムとアニーではない。ドンニィとシュリーだ、と。ドンニィは、シャルロット=チャルトルィスカを愛している。そして、シャルロットの方も・・・。悪夢だった。5年前の悪夢がよみがえってきた。きみたちの恋愛がどこまでが劇でどこまでが事実なのか、ぼくにはわからなくなっていった・・・。でも、シャルロット=チャルトルィスカは、ドンニィのフィアンセではない。今度は、ぼくにもチャンスがあるはずだ・・・。ぼくは、ドンニィの手からきみを奪い取ろうと思った、どんなことをしてでも。ところが、ぼくの強引さが裏目に出て、きみは、大事なコンクールの前に風邪をひいてしまった・・・」
 シャルロットは青くなった。「お願い、その先は話さないで!」
 ヴィトールドも青くなり、思わず毛布を握りしめた。しかし、彼は何も言わなかった。
「・・・いや、話さなければならない。ぼくの懺悔を聞いて欲しいんだ」ドニが言った。「女子寮が見えるこの部屋で最期を迎えるぼくにとって、今必要なのは、きみの心からの許しだ」
「許します。だから、話さないで」シャルロットは彼の手を握りしめた。
「聞かないうちに許せるだろうか?」ドニは唇の端をゆがめた。
「できれば、聞きたくない・・・」シャルロットはつぶやいた。「思い出したくないの」
 ドニはゆっくり首を横に振った。「ぼくの最後の願いだと思って、聞いてくれ」
 シャルロットも首を振った。しかし、それはドニには見えない。
「ぼくは、きみに会わなければならないと思った。会って謝りたかった。しかし、きみはいつまでたっても良くならなかったから、謝るチャンスがなかった。少しでもきみの近くにいたくて、寮のきみの部屋の真下のあの大きな木の下に行った。あの日、たまたま、きみはピアノを弾いた。そして・・・」彼は言葉を切り、苦しそうに息を吐き出した。「・・・いけなかったのは、ぼくが木の上で眠ってしまって、寮の門限に遅れたことだけだった。だけど、騒ぎが大きくなってしまい、ぼくは反省室に入れられた。そればかりではない。きみは、もっと罪が重い人だけが入ると言われる地下牢に入れられた。きみには、何の罪もなかったのに・・・」
 シャルロットは両手で顔を覆った。「あなたが来てくれたことを恨んだことは一度もないわ。もし、あんなことにならなかったら、あなたに心からお礼を言っていたと思う・・・」
「お礼ねえ・・・」ドニが言った。「そう思っているとしたら、きみはすべてを知らないんだね?」
 シャルロットは手を下ろした。「・・・すべて?」
「あのとき、ぼくたちの無実を信じた人たちが、ぼくたちを助けるために努力をしてくれた。特に、ヴィトールド=ザレスキーは。だけど、ヴィトールドがしたことは、本当に危険な賭だった」
「彼が地下牢に来てくれたことが?」
「そうじゃない・・・」ドニは否定した。そして、彼はためらいを見せるようにしばらく黙った。
 シャルロットは沈黙を破った。「あなたは、懺悔と言ったわね。それなら、最後まで言うべきよ」
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