FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第70章

第1270回

 ウラディーミルは下を向いた。
「・・・あなたも、コンクール史上語り継がれていく人間なんだね」ヴィトールドはそう言い、唇の端をゆがめた。「受賞記念コンサートに出てからシャルロットを追いかけるべきだったのに」
「あのときの自分は、自分ではなかった」ウラディーミルは言った。「コンクールより、シャルロットがそばにいないことの方が大問題だった」
 ヴィトールドはふっと笑った。「・・・死ぬ前に一度はそんな恋愛をしてみたいな」
「死ぬ前に?」
「怪我が治ったら、また戦場に戻らなければならない。ぼくは職業軍人だ」ヴィトールドが言った。
 ウラディーミルは驚いたように顔を上げた。
「ぼくが士官学校を卒業したことは、誰からも聞いていないの?」
「あなたが?」ウラディーミルは目を丸くした。「でも、なぜ、軍人になんて?」
「ぼくには、守りたい女性がいる」
 ウラディーミルは真剣な顔をした。「じゃ、あなたにもわかってもらえるでしょう、ぼくの気持ち? ぼくはシャルロットを諦めるくらいなら、この窓から飛び降りて死んだ方がましだ」
「ここから飛び降りる?」ヴィトールドが言った。「ここは3階だぞ」
 しかし、ヴィトールドは彼ならやりかねないと思った。
「かの女を誰にも渡したくない」ウラディーミルが言った。「・・・だけど、どうして彼なんだ?」
「どうして、って?」
「なぜシャルロットはコルネリウスを愛しているんだろう?」
 ヴィトールドはほほえんだ。「愛し合うのに、理由が必要か?」
 ウラディーミルは赤くなった。
「一つだけ聞いていい?」ヴィトールドが言った。ウラディーミルはうなずいた。「あなたがシャルロットと結婚したとして、かの女が幸せになると断言できるか?」
 ウラディーミルははっきりと言った。「ぼくはかの女を幸せにするよ」
「ぼくは、かの女を幸せにできるかと聞いたのではない。かの女が幸せになるかと聞いた」ヴィトールドは真剣な顔をした。「その違いがわかるかい?」
 きょとんとしていたウラディーミルに、ヴィトールドが言った。「ああ、やっぱりわからないんだね。幸せなんて、人に押しつけられるものじゃない。誰かに与えられるものでもない」
 ウラディーミルはまだ黙っていた。
「シャルロットが選んだのは、コルネリウス=ド=ヴェルクルーズというフランショーム一族の男性だ。フランショーム家とザレスキー家の不幸な過去を考えると、大変な苦労を背負い込まなければならない可能性があるカップルだ。だけど、かの女は、自分が幸せになるためには彼が必要だと思った。本当にかの女を愛し、かの女に幸せになって欲しかったら、身を退くべきだとぼくは思う」
「あなたは、恋をしたことがないの?」ウラディーミルが言った。「本当に欲しかったら、たとえ犯罪行為であっても、なんだってしようと思ったことがないの?」
「まさか、犯罪を行った・・・?」ヴィトールドの口調は冗談交じりだった。
 ウラディーミルはうなずいた。「ぼくは、かの女を力ずくで奪った」
 ヴィトールドは、彼が言いたかったことを悟り、真っ青になった。彼は歯を食いしばった。「・・・あなたは、運が良かった。もし、ぼくの身体がこんな風に固定されていなかったら・・・」
 ウラディーミルは急に殺意を感じた。アンブロワーズ=ダルベールにナイフを振り上げられたとき以上の恐怖を感じた。ヴィトールドの言葉は、単なる脅しではなかった。
「あなたには、シャルロットを妻とする資格はない。いや、人を愛する資格はない。ぼくが言いたいこと、わかる?」
 ウラディーミルは肩をすくめた。
「わからない・・・?」ヴィトールドはそれ以上何も言わなかった。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ